episode2:ロマンチスト・エゴイスト 1
けっこう読みやすい話なので、週末の暇つぶしぐらいにはなると思います。
あれからというもの、俺の生活は少しづつ変わっていった。
たまに会う彼女との会話が中心になったのだ。
彼女のサークルを突き止めようとしたこともあったが、諦めてしまった。この大学には幾つもテニサーがあるし、調べる内に申し訳ない気持ちになったからだ。あの子にストーカーだと思われたくないのはもちろんのこと、あの会話のノリはあの時間、あの場所だからこそ成立していると思う。
そして、これは俺の中で衝撃的なことだが、ナプ集(使用済みナプキン集めのこと)をやめてしまった。
彼女に見られてはまずいからというのも大きいが、なんだかやる気がなくなってしまったのだ。
俺はこれを長い賢者タイムと名付けている。
きっと今は偶然スッキリしているだけ。またいつかイライラする時が来たら実行するだろう。そう、きっと。
今日もまた喫煙所に向かう。
彼女はいるだろうか。
お互い約束したわけではないが22時ぐらいが暗黙の了解として会える時間になっていた。いない時もあるので過度の期待は禁物さ。
「……こんばんは」
俺は喫煙所のパイプ椅子に座る小柄な影に声をかけた。
「今日もそのジャージなんだね」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「まあな」
「洗ってないの?」
「同じのを3枚持ってるからね」
「アニメみたい」
彼女はケラケラと笑った。
「まあ、嘘だけどな」
実際は洗っていないので少し汚れた袖口をなんとなく隠した。
特に示し合わせたわけではないが、2人同時にタバコの火をつけた。こういった動作がなんだか心地いいんだよ。煙は夜空に舞い上がって、ゆっくりと消えていった。
大きく一口吸ったところで彼女は思いがけない事を言ってきた。
「あのさぁ、突然なんだけど将来ってどのくらい考えてる?」
唐突に真面目な話だ。どうしたのだろうか、悩み相談だろうか。
俺はこういう質問があるとき、自分ではあまりしゃべらないことにしている。なぜならおそらくこういった質問をするとき、相手は俺が何を考えているのか知りたいのか聞きたいのではなく、相手が悩んでいて、それのきっかけとして質問しているにすぎないからだ。
「んーまあ今いるゼミの先輩の話とか聞いていろいろとね。そっちは?」
「君って社会学部でしょ、それに関係した仕事とか?」
やっぱりね。就活の話題だろうか。この子はしっかり者なのかもしれない。俺はいかに怠惰に生活できるかしか考えていないのだが。
「まさか。学部で勉強したことをそのまま生かせるなんて理系だけなんじゃないかな。」
「ううっ……」
なぜか彼女は唸っている。
俺は煙をフッっと吐き出して聞いた。
「なんかあったの?」
「うーん、まあね。友達といろいろあってさ。」
やっぱり。相談事だな。
「具体的には?」
「いろいろと……」
なんだこの娘、話さないのか。どう考えても話したいことがあるだろうに。俺はすこし意地悪したくなってきたので、なにも聞かないことにした。
「ふーん、大変だね。まあ俺は詮索しないけど」
「はあ?こういうときはもっと掘り下げるでしょ?」
……なんだこの女、めんどくさいなぁ。そしてなぜか彼女はキレ気味だ。生理なんだろうか。
「うわっ。構ってちゃん宣言ですか」
俺は楽しくなってしまった。
「はあ?もうじゃあ話さないよ」
彼女はムスッとしている。唇をへの字にしてそっぽを向いてしまった。
「じゃあ俺も聞かなーい」
「あっそ」
彼女はタバコを灰皿にグリグリと押し付けて火を消した。彼女のふくれっ面を堪能できたのでそろそろ聞いてあげよう。