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prologue:2

 続きです。この小説は1章だいたい2000字ぐらいで区切っているのですが、読みやすさから言ったらどうなんでしょうか?

 ちなみにここに出てくるタバコはなんとなくアークロイヤルかキャスターあたりを想像してくださるとありがたいです。まあ甘ったるい匂いですね。


 あなたの宝物はなんですか―――


 そう聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか。俺は最近宝物を見つけた。といっても流行りの歌に出てくるような、美しい友情や思い出の景色なんかじゃない。しかも他人には言えないものだ。俺は、まあきっと世間でいうところの変態なんだろう、きっと。


 ―――だからそんなものを見つけて大事にするようになったのさ。


 俺は大学のゼミで女の集団に馬鹿にされて以来、女がどうしょうもなく怖くなった。発表したレポートはまあ恋愛心理みたいなやつで、人口減少をたどる日本社会において画期的な男女交際を提示したものだ。俺が興味を持っていた内容だし、社会にとっても有益だと判断した。

 馬鹿にされたことについては、ああ、思い出したくもない。集団で何度も人の気持ちがわかってない、という罵声を浴びた。


 それ以来俺は女という存在を敵視している。


 女は敵だ。きっとそうに違いない。


 キャンパス内の食堂で女の集団を見れば聞き耳を立て、大講堂で講義を受ける女の集団があれば何か悪いことをしていないか監視した。俺はやつらと戦って勝つ。何の戦いなのか、何が勝利かさっぱりわからないが、まずは奴らの弱点を見つけなければならない。


 それは忌まわしいゼミ発表の3日後、真夜中の下宿でのことだった。俺の部屋は4階建の2階にある6畳のワンルームなのだが、間取りが悪い。まず太陽光がほとんど入ってこない。もちろん月明かりも入ってこない。俺は本当の意味で真っ暗な布団の中で中学生時代のゴミ女ランキング(高校生ランキングは昨日完成した)を考察していた。中学時代をぼんやりと思い出し、俺が唯一得意だった水泳の授業のことを考えていた。


 中学校の薄汚いプールサイドを思い浮かべた瞬間、何かがはじけ飛んだようにひらめいた。


 そういえばよく休む女子がいたな。今考えれば咎めにくい理由を使ってズル休みしていたんだろうな。これだから女ってやつは。いや、待て―――そうだ、やつらは月1で弱点をさらしていたな。


 ―――俺の中で鮮烈な答えが浮かんできた。


 ―――生理だ。


 俺はやつらの弱点を唐突に発見した。


 そう思うと居ても立ってもいられず、脱ぎ捨てられた赤いジャージを乱暴に羽織った。下宿のアパートを飛び出し、原チャリに跨り大学に向かった。


 深夜の県道を法定速度ギリギリでかっ飛ばし大学を目指す。ハンドルを握る手に汗がにじむ。


 今日の俺はどうかしている!もう胸の内に爆発した衝動だけで動いている。

 そんな自分がいた。


 原チャリを駐輪場に適当に止めると、なるべく人気のない喫煙所近くの女子トイレの前まで走った。


 心臓は高鳴っている。

 万引きなら商品をポケットに入れた状態。銀行強盗で言えば、ボストンバックの中にある拳銃を握りしめて銀行に入った状態。


 今なら引き返せる。いや、俺は確かめなくてはならない。

 教授も言っていた。机上の空論ではいけない。

 ―――学問とは常に仮定と実践の組み合わせだ。





 12時過ぎ、遠くで暴走族の爆音が微かに聞こえる頃、人気のない女子トイレの個室に俺は居た。


 見つけた。


 洋式便所の隅に設置されている白とピンクの小さな箱。この中にやつらの弱点が詰まっている。


 衝動に任せてふたを開けブツを取り出だす。

 生理的に受け付けない臭いがしたが、その中でも綺麗にくるまったものをジャージのポケットに入れる。


 俺は脱兎のごとくその場を離れ、気が付くと下宿の玄関に立っていた。

 心の中の界王様が叫ぶ「は、早いっ!!!すばらしく早かったぞ!!!」

 きっとベジータ戦で天国から戻る悟空並みに早い帰宅だったと思う。


 それ以来大学で嫌なこと(主に外敵との遭遇において)があるたび、深夜に女子トイレに侵入することが俺の日課になった。これさえあれば何とかなる。それを眺めるたびに俺は心が落ち着く実感を得られた。


 自分でもおかしいのはわかるが、やめられない。


 俺は天国にいる父と母にそっと謝った。

 ……まあ、2人とも横須賀の実家で元気にやっているが。


 ただ衛生面を考え、翌日の朝には生ごみと一緒に捨てさせてもらった。さらに回数を重ねると外敵に遭遇してしまうリスクも高まると判断し、対策も講じた。


 タバコの箱を女子トイレに投げ入れるというものだ。我ながらいいアイデアだと思う。

 投げ入れた際に誰かいれば、そこで何らかの反応があるだろう。

 もし運悪く個室から出てきた敵に遭遇しても「悪ふざけで友人にタバコを投げ入れられ、恥ずかしくてしょうがないけれど1人でタバコを探していた」と言い訳ができる。


 世が世なら賞賛されただろう。そんな世の中来るか?まあいいか。


 かくして俺はゆるぎない自己を手に入れた。どんなにあいつらが怖くてもあれさえあれば自分を保つことができる。


 やつらの弱点を俺は知っている―――


 そう、今日のこの時までは。


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