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episode3:野球は9回2アウトから 3

 ツッコミ役、俺。


 はい?1ヶ月前??トイレに落ちてたタバコ???俺は驚愕の事実にゾクっとした。

 思わず仰け反る。

 背中に汗をかいているのを感じた。


 ―――何ということだろう。今彼女が手にしているタバコ、それが俺が落としたものだったとは。

 というか、何という偶然なんだろう。


 今にして思えば、今永さんに初めて会った時、ライターを借りた。彼女は銘柄だけではなくて、ライターも同じ色だった。珍しいこともあるものだと思った俺はなんてマヌケだろう。そりゃそうだ。だって俺のだったのだから。

 そしてさっきの警官とのやりとり、連絡先を言わなかったことについて。今、幾分冷静になったから判る。


 一般論として、若い女性は住所を安易に言わないほうがいい。ストーカー被害とか、それはわかる。

 だけど、彼女はそうじゃないと言った。やはりなにか隠しているんだろう。

 そしてさっきの話題。さすがに俺でもわかる。いつからタバコを吸い始めた云々は明らかに話を変えようとして言ったことだろう。

 聞いたら嫌われるんじゃ無いかという気持ちと、どうしても聞きたいという気持ち、その今まで絶妙なバランスを保っていた天秤がガクッと崩れるのを感じた。


 ―――うん。面倒を押し付けたと自覚してるのであれば聞いてやろうじゃ無いか。

 「あのさ、掘り返して申し訳ないんだけどさ」

 「うん?」

 「ほんとに小さいことなんだけど、ちょっと気になったこと聞いていい?」

 俺は慎重に、言葉を選んだ。

 「え、何かな」

 彼女は途端に不安そうな顔になった。

 「どうして言わなかったんだい」

 「え、何を」

 彼女は露骨に目が泳いでいる。

 「住所だよ。警官に聞かれても答えようとしなかっただろう。たまに話すだけの男に住所知られたくないってのはわかるけど、俺に聞かれたくないなら学生証とか免許証を警官に渡すとか、もっとあっただろ」


 「……」

 しまった、言いすぎたか。彼女は黙って下唇を噛んでいる。

 若干の沈黙。やってしまった。踏み込み過ぎた。どんな理由があるにせよ、詮索しすぎたのか……。

 「い、いや。ごめん、別にいいたくないならいいんだけどさ」

 「じゃあ聞かないでよ」

 「何か警察には言えない事情があったのかな、って思って」

 「……あるにはあるけど」

 「けど?」

 ……おや?これはもしかすると。

 「……」

 「今永さんさっき言ってたじゃん『私は言いたいことが言えない人間だ』って」

 彼女が言ったことを利用するのは卑怯だろうか。いや、この際そんなことは後回しだ。

 「うん、言ったけどさ」

 「俺口の硬さには自信がるし、何か言っておきたいことがあるなら聞くよ」

 「じゃ、じゃあ絶対に引かないって約束する?」

 「ああ」

 俺は天の岩戸が開くのを感じ取った。あと少しだ。あと少して今永杏子の秘密がわかる。

 「通報したりしない?」

 「え、犯罪系なの?」

 「今引いたでしょ?」

 「いや、引いてない」

 「ほんと?」

 「うん」

 「じゃあ何言っても友達とかに言いふらさない?」

 ……やった。こういう言葉が出てきたならもう80パーセントぐらい成功だ。後は彼女が喋るだけ。がんばれネゴシエーター熊原!!

 「うん。何を言われても黙ってる。墓の中まで持ってく」

 「ほんと?」

 ううっ……やっぱめんどくさいぞコイツ。あと少し、後少しなんだ。

 「うん。約束する」


 俺はゴクリと唾を飲み、彼女の告白を待った。

 一体何を抱えているんだ。この娘は。

 俺はいろんな可能性が頭の上に浮かんだ。実は住所不定だった、とか?

 はたまた指名手配中の逃亡犯?まさかね。

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