episode2:ロマンチスト・エゴイスト 5
私は改めてさっきの個室に入る。
するとどうだろう。さっきは気がつかなったけど、この芳香剤は新品だ。ホコリ1つ無い。
4つの個室の内、1つだけ置いてあって、しかも新品。
手にとってみる。
……おや?それなりに重量は感じるが液体が入っている感じがしない。それに、この手の芳香剤にありがちなキツイ匂いがほんの僅かだ。これはなにかあるよ、きっと。
恐る恐る蓋を開けてみると、私は「アッ!」と声を上げた。
「おい!大丈夫か!」
外から彼の飛び上がるような声がした。
「大丈夫!ちょっとまって!」
私はとりあえず返事をしたが、手に持っている芳香剤の中身に戦慄した。
私は大きく息を吸い、一旦落ち着かせた。
……うん。
さあ彼に報告しよう。私は芳香剤をしっかりと抱え、足早にトイレから出た。
「……おまたせ」
「何かあったの?」
彼は若干心配そうな顔をしていた。
「うん、これ」
私は芳香剤の箱を彼に見せた。一見市販の芳香剤だけど、中身の液体はすべて抜かれている。その代わりに入っていたものは……。
「これは……小型カメラだな」
彼は眉間にしわを寄せて唸った。
「うん」
ちょうど企業ロゴのマークのところが丁寧に切り取られ、巧妙に小さなカメラが埋め込んであった。小さな電子基板が入っていてバッテリーと一緒にケーブルが乱雑に押し込められている。芳香剤の液体の代わりに蛍光色の紙が箱の内側に貼ってあって、ちょっと見ただけじゃ気がつかない。
「盗撮犯だったんだな……」
「ほっんと気持ち悪い。最悪ッ……」
私は嫌悪感でいっぱいになり、言葉が続かなくなった。
これは絶対に許してはおけない。
この時私はこんな気持ちで、この後どうなるかなんて予想していなかった。
まさか、あんなことになるなんて。
ここから先は、私の口からは語りたく無い。
あまりにも恥ずかしいし、私の頭の回らなさはもう嫌というほど知ってる。
バッター、交代。




