episode2:ロマンチスト・エゴイスト 4
明るくなったトイレは一見特に変わったところがなかった。
クラシックな洗面台と小綺麗なタイル。やっぱりこの大学はオシャレね。
ここのトイレは個室が4つある。
私は全ての個室が空席マークにっていることを確認した。
まず1番奥の個室から…私は恐る恐る取っ手を引いた。
……うん、誰もいない。個室は空っぽでトイレットペーパーの予備やサニタリーボックスが置いてあるだけ。なんの変哲も無い。
次の個室にも入ってみる。
……何も無い。
ふう。ここも大丈夫、異変はない。
次。
……特に異変はない。
さっきの男は何しに入ったのだろう。そんなことを考え始めた。
短い時間で変質者ができること、まったく思い使いない。変質者の思考が全然わからない。
もしかして誰もいなくてがっかりして帰ったとか?いや、そもそもこんな深夜には誰もいないことは常識としてわかる。
最後の扉を「そおぃ!」と勢いよく開けた。
残念ながら(?)なにも変わったことはない。
ただ、今までと違った点が1つだけあった。
他の個室と違いトイレの芳香剤が置いてあったのだ。
ウォシュレットパネル兼トイレットペーパーホルダーの上においてあったが、別段変わったことは無い。よくある市販のものだ。
私はすこしほっとした気分でトイレを出た。
「どうだった?」
彼は直立したままで私に聞いた。ずっとこの姿勢だったのだろうか。すこし笑ってしまう。
「特に何もなかったかな。ただ入って出て行っただけなのかもしれない」
「そうか……意外だな」
彼は左手を顎に当てなにか難しそうに考え込んだ。
「意外?」
「うん。奴の格好は真っ黒だったろ?あれは周りから気づかれないための格好だ。もし偶然にもトイレの中で女子に鉢合わせてしまったら、1発でアウトだ。あれほど変質者らしい格好もない。普通の格好なら暗くて入り口を間違えてしまった、みたいな言い訳が立つだろう?」
「なるほど……」
それは確かに道理が通っている。彼はさっきの能天気な発言とは真逆に、なかなか冴えた推理をした。
「つまりさ」
「つまり?」
「奴はムラムラして突発的に侵入したとかじゃなくて、暗闇にまぎれて何かをしようとした、用意周到な変質者ってことさ」
「……なんのために?」
「……」
彼は黙り込んだ。下唇を噛んで、なんだか悩ましそうな顔だ。
しかし、彼の言ったことはもっともだ。私は必死で考えた。何かなかっただだろうか。
「そういえば、1つだけなんだけど」
「なんだい?」
「手前の個室だけ、芳香剤があったよ。ほかの個室にはなかったから思い出した」
「芳香剤?どこにおいてあったの」
「えーとね、なんていうか音姫の下っていうか、あれ何て言うんだっけ。えっと……」
「ああ、トイレットペーパーホルダーの台の上かい?」
「ああ、それそれ」
「申し訳ないけど、持ってきてもらっていいかな」
「まかせて!」
……ん?なぜ彼はここの女子トイレの配置を知っているのだろう?
あ、最近のトイレは男子の方にも音姫が付いているのだろうか?私の頭に一瞬だけクエスチョンマークが浮かんだけど、彼の提案は心躍った。確かにあの芳香剤には何かありそう。




