勇者をしっかりと抱きしめた
ポカンと口を開けた表情がまた可愛い。
「どうしてぇ! ねえ。どうして。わかったの? 私そこまでヒント出して居ないよね。」
僕の肩を掴んで揺さぶってくるが弱々しい力だ。
確かに今までのことは彼女の言葉の端々から推測できる範囲だ。
このことを思いついたとき、何をバカなことと思ったが次第にそれしか無いように思えてならなかったのだ。
だから直接ぶつけてみた。
「勘かな。鳥人親子の話を聞いて、リセットをかけたかったのかなって。元人間の僕が頂点でその下に勇者なら人界の反発というか帝国の反発は最低限に抑えられるし、死霊王の伴侶なら魔界の反発も抑えられるよね。そうやって知らず知らずのうちに世界が征服されていくのかなと思ったんですよ。」
「魔王が討伐されてユウヤだけは脳天気に喜んでいたけど、私ももう一人の勇者も全然喜べなかったの。私が戦争に関わった時期ではもう遅すぎたのはわかっている。あそこで魔王を倒さないという選択肢は無かった。」
彼女が自分で自分を抱きしめる。
まるで世界に自分ひとりしか存在しないかのように。
「わかっています。貴女は間違った選択をしていない。それでも後悔したんですね。そして自分の意思を持たず流されるまま生きていこうとした。」
そんな態度の彼女に対して怒りよりも愛したい。
傍にいてあげたいと思うのは許されることだろうか。
そっと肩を抱くと身体を預けてくれる。
「ええそうよ。王妃どころか国王になってくれないかという打診もあったわ。でも、もうそういうことに関わりたく無かったの。誰かの運命を私が握るのではなくて、私の運命は誰かに握られる。それが普通よね。結局、抵抗しちゃったんだけどね。」
「そして思わぬ権力が転がりこんできて、鳥人親子に関わりのある人間を抹殺していった。」
僕は彼女を抱きしめ離れないようにして言った。
鳥人親子の件を僕なりに調べてみると帝国内に生き残りが居たと思われる痕跡のある人物は全てキャラバン公爵家が取り潰しだ貴族だった。これが関係ないわけがない。
「無罪かもしれない。だけど、あのときあの場所に居て止められなかったのなら有罪だわ。」
案の定、彼女は抵抗して離れようとするが僕の離さないという意図が伝わったのかすぐにあきらめたようだ。
「断罪するつもりは無いです。僕が権力を握ったら真っ先にやっていたであろうことですからね。でも、あの当時、あの場所にいた人物はもう死に絶えています。長寿な種族はそもそもそこまで寿命に執着心が無いから関わって居たはずもないですからね。」
もし居たとしても、世界征服をしてからでも遅くは無い。
「もう一度聞くわ。私をどうしたいの?」
「・・・そうですね。僕の自己満足のために同じ罪を背負いたい。全てを知った上で『清廉潔白な魔王』を演じたい。」
少し考えた僕は正直に話すことにした。
でも返ってきた答えは思った通りのものだった。
「大きく出たわね。でも、貴方は知らないだけで私は貴方を殺せるのよ。本当の意味で。いくらでもやり直せるわ。」
「もちろん知っていますよ。1番目の質問でシロヴェーヌ様が不幸になるなら、自分で自分を殺すつもりでしたからね。これから先何度も裏切ることになるのならば、そのほうがいいと思ったからです。そうですね。火山の溶岩の中に飛び込めば確実に死ねるでしょう?」
一晩かけて再生され死に戻ってくるならば、完全に身体を消滅させればいい。きっと勇者たちもそうやって魔王を殺したのだろう。
「なんでっ!」
「そうやって、世界中で自分ひとりしか同じ場所に居ないのだと思い込んでいるからですよ。それとも、たかだか100年ちょっとでシロヴェーヌ様の気持ちがわかるつもりになっているんですか? それなら死霊王の伴侶として言ってあげます。『思い上がるのもいい加減にしてください。』ってね。」
「なんでっ15年しか生きていないガキにこんなことを言われなくてはいけないのよ。」
「じゃあ5000年後くらいにもう一度言ってください。『私は5150年も生きているのよ。5015年しか生きて居ないガキに言われたくないわ。』ってね。それまで僕は、シロヴェーヌ様と引きこもっていることにします。」
「待って! 私を5000年もひとりきりにするつもり?」
「貴女が受け入れるか。拒絶するかの2者択一です。それ以外あり得ませんよ。」
「だから、貴方を殺すことも出来るんだって。」
「本当にですか? 僕を殺してシロヴェーヌ様を傷つけて、貴女は生きていられるんですか? それならどうぞ殺してください。」
そして僕は目を瞑る。
彼女の手が僕の首に掛かる。何度も躊躇しているのがわかる。不意に手が離れて僕に抱きついて泣き出してしまった。
僕はその彼女をしっかりと抱きしめる。