どうでもいいことは聞かない
「何を言っているのよ。『魔王』なんて何か勘違いしてない?」
「まだ腹の探り合いを続けるつもりですか? すべてじゃなくても、とにかく話して進まざるを得ないようにしようとしたわけでしょう。呼び名だけの問題です。『魔王』のたち位置でも構いません。覚悟は決めました。シロヴェーヌ様と僕と貴女が幸せになれるならば。」
「こんな子供に翻弄されるなんて有り得ないわ。」
長い沈黙の後、何かを紡ぐように言葉を絞り出す。
「もう後戻りは出来ませんよ。お互いに。でも隠し事が発覚したら、貴女をひとり置いてシロヴェーヌ様と引きこもります。だからすべてを話してください。」
一番簡単に実行できそうな切り札をちらつかせてみせる。
「貴方、誰なの。こんなのモーちゃんじゃない。」
なんだろうこの頑なさは、まるでずっと成長しないままの小説の主人公のようだ。もしそんな作品があれば駄作もいいところだ。それこそ成長しない人間なんていないのだから。
「貴女が僕を変えたんですよ。さあ白状しなさい。僕の祖父は何者だったんですか?」
「えっ。そんなところまで・・・。」
彼女は慌てて口を手で塞ぐがもう遅い。
「そうですか。貴女の直系子孫は貴女の意図に応じた人物と出会わされたのですね。貴女のというよりも皇族の家系は恋に一途だから、ドラマチックな出会いがあったら、一気にのめり込む。そこを利用したのですね。これを知ったら皆どう思うだろうか。」
「やめて! お願いします!」
今にも泣きそうな彼女を見るにつけ、心を動かされるが、これが演技じゃない保証はどこにもないのだ。
「それで祖父は何者だったんですか?」
僕は声に感情が乗らないことに気をつけて言った。
「ある時代の宰相の隠し子の子供だったの。父親の方はただの浪費家だったけど、子供の方は親から受け継いだ僅かな資金を元手に事業を拡張していったわ。誰にでもできることじゃない。」
そう言えば祖父に聞いたことがある。祖父はその伝手を一切使わずに成り上がったと自慢していた覚えがある。たしかドトーリーという名前の宰相だ。
一時期不在だった皇帝の座を皇帝代理に固執するメリーに3年で首を縦に振らせて、第34代皇帝に押し上げた人物として有名だ。当然、当時皇帝の子供を産んでいたアレクサンドラ様も皇妃の座についた。
「その宰相が恐怖に強かったんですか?」
「そうね。バカみたいに精神力が強いジジイだったわ。あのジジイが生きている間は自由が効かなかったわね。だから、死んだあとから行動したわけよ。」
憎々しげに吐き捨てる。よほど相性が悪かったようだ。
「公爵令嬢誘拐事件は一種の囮だったんですよね。どの辺りで見ていたんですか?」
「ああもう本当にドトーリーの直系だわよ。容赦なさすぎでしょ。もうちょっと手加減してくれてもいいじゃない。」
「近くに潜んでいたと。僕が巡回している辺りを狙って隙を作ったんですね。公爵令嬢が浚われる瞬間に出会うようなタイミングで。僕が死んだり、怪我することも考慮のうちだった。そうですよね。」
「ああもう。そうよ。死ぬとは思わなかったと言ったら嘘になるわ。でもまさか自分が死ぬとは思わなかったのよ。バカだよね。何もかも仕組んでおいて少しの計算違いで自分が死ぬなんて。」
「それで転生できるとなった時に続きを見れる立場の生き物を希望したわけですね。」
「そう神の前ですべてを懺悔したら、同情、いやこの場合賛同してくれたのかな。私の計画を補完できる立場の生き物に生まれ替わらせてくれたのよ。」
矢継ぎ早にまくしたてる彼女にそっと近付いて唇を重ねる。
「夜は長いんだから、ゆっくりで構わないよ。急がないで落ち着いて。」
彼女の赤くなっていた頬が白くなり、うっすらとピンク色に染まる。
「ごめんなさい。貴方をそんなふうに変えてしまったのは私なのね。でも、今の貴方の方が魅力的だわ。」
「そうかな。ありがとう。僕が皇太子殿下の護衛に雇われたのは、将来現れるであろうレイピア遣いを雇えとか遺言でも残したのかな。」
女性のレイピア遣いは結構いるが男性となるとごくわずかだ。さらに殿下の目に止まりそうなところというとほとんどゼロに近い。
「冴えているわね。その通りよ。」
次は目的だ。僕が本当に魔王サクランに似ていたかどうかなんてどうでもいい。もう僕はシロさんに出会ってしまったのだから。
「『魔界と人界の人々が仲良く暮らしました。』が目的で僕が『魔王』になって『世界征服をすること』が手段でいい?」
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