生まれ替わっても悪役です
どうやら、思ってみなかった質問みたいで、口を半開きにしたまま、視点があっていないような表情だった。
よしチャンスだ。
今、彼女の頭の中では突然出てきたパズルのピースを辻褄が合うように当てはめているのだろう。
でも、そんな答えは聞きたくない。
僕はそっと近付いていくと、彼女の唇に自分の唇を重ねる。
彼女は目を見開くが僕の舌が入り込むとそのまま身体を預けてきた。
「・・・ん・・っ・・ふ・・ん・・ぅ・・・ちゅっ。」
大した抵抗も無く受け入れたということは、彼女が転生してきたのは嘘じゃないらしい。肉体的に直系の子孫とそういう関係になるには相当抵抗があるはずだ。
それでも唇を離した彼女は頬をピンク色に染め上げている。
「なんで・・・っ・・。」
彼女の中では自分の順番じゃないと思っているのだろう。今までみたことが無い、素の表情を見せてくれる彼女を少し可愛いと思った。
「言い方を替えましょう。どうすれば僕は貴女自身を幸せにできますか? 貴女の理想が叶うなんておためごかしは無しにしてくださいね。」
「それは・・・。」
そのものズバリの答えだったのだろう。何かを言いかけて言いよどむ。
「ボーイズラブでしたか。僕が男とそういう関係になればいいのですか。」
公爵夫人によれば、アレクサンドラ様はそういったことを覗き見するのが好き何だとか、言っていた覚えがある。おそらく昔、アレクサンドラ様が囲っていたという男たちは隠れ蓑なのだろう。
「ダメ。それは絶対にダメ。」
強い拒絶反応が返ってくる。だが生理的にダメというよりは完全否定に近い。
「何故です。男同士の閨を覗きたいんでしょう?」
僕はさらに彼女の本音を聞きたくて追い詰める。
「ダメなの。私が堕落してしまう。」
なるほど、過去に1度試して堕落したわけだ。逆に言えば、これが彼女の弱点だ。僕が男に走れば彼女の意図から完全に外れることができる。まあ有り得ない選択だけど。
そういった質問をしながらも、僕の手は彼女の背中に回っている。良し取れた。
「えっ・・・。」
緩くなった胸当ての中から手を回してそっとその先端部を軽く触れる。初めは優しくだ。
「・・ちゅ・・ぺ・ちゃ・・ぎゅ・・にゅう・・。」
再び開いた唇に今度はかなり強引に舌をねじ込み、舌同士を絡ませる。
もちろん、その間にも左手は彼女の背中に回り込み預けてくる身体を支えており、右手は忙しなく蠢いている。
僕は彼女の瞳を見つめながら、小鳥が花を啄むようなキスを繰り返す。
「・・・あ・・ふ・・ん・・・。」
良しここだ。
そのまま、近くにあったベッドに彼女を押し倒した。
「なんで・・・こんなに手慣れているのよ。計算が狂ったわ。」
一線を越えて終わったあと、ようやく落ち着いてきたのか。そんな感想が返ってきた。
「僕を童貞だと思っていたのですか?」
15歳といえば成人だ。もちろん、社交界デビューもしているし、どこかのご令嬢とするのに恥をかかない程度の経験は既に積んでいる。
「15歳といえば・・・ダメだわ・・異世界では違うんだったわね。私の願望か。」
僕の周辺には誘惑してくる女性は沢山いた。そうお得意様になっていた貴族の奥様たちだ。御用聞きに伺うたびに露出度の高い格好をしていたり、ワザとエッチな話題を振ってきたり、僕も興味があったが流石に初めての相手がそんな奥様たちのつまみ食いでは悲しすぎるから避けていたのだが。
僕の童貞はイアンナ子爵夫人に奪われた。いや違う彼女は店長に厳しく当たられ、肉体的にも精神的にもボロボロだった僕を心配して身体を重ねて慰めてくれたのだ。
若くして嫁ぎ、若くして旦那さんを失った彼女はそのときまだ20代で僕はイアンナさんにのめり込んだ。女性のエスコートの仕方からどういったことがタブーでどういったことが必要なことなのか。そう自分の子供に教えるように愛情を注ぎ込んでくれた。
だがイアンナさんが僕を養子に迎えたいと言い出したときにすべては終わったのだ。僕の愛とイアンナさんの愛情が全く違う方向のものだと知らされたのはつらかった。
「特に貴族社会の人間は10歳で経験している人もいますね。そういう意味では、僕の童貞を奪っても構わなかったんですよ。」
さすがに直系尊属でそういう関係を持ったという人間は滅多に居ないが、叔母や従姉に教えて貰ったというのは良く聞く話だ。
「できるかっ! 近親相姦なんて有り得ないわ。」
良かった。
転生してない可能性も僅かにあったので一抹の不安があったのだ。
身体の関係を続けるなら、肉親の愛情よりは女性として愛情を注げるほうがのめり込める。
「どうしたの?」
ホッとした表情が出ていたのだろうマジマジと顔を見ている。そちらがそのつもりなら。
「貴女の転生を少しだけ疑っていたのです。十中八九は違うと思ったから踏み切ったんですけどね。」
彼女を真正面から見つめ返して、少し微笑みながら言い返した。
「・・・・・マジ? うわっ・・男の子ねえ。曾々祖母かもしれない女性とやれるんだ。それでどうだった?」
彼女はボンと真っ赤な顔をする。うんうん可愛い。
「イクときの表情も可愛いですが、そうやって素のままの表情のほうがもっと可愛いです。」
「・・・何これ・・何なの・・。」
彼女は顔どころか首筋から手まで上半身すべて真っ赤にして、うつむいてしまった。まるで公爵令嬢のようである。やはり直系なのだろう似ている気がする。
「私をいったいどうするつもりなの?」
「そうですね。貴女の肉体に溺れた僕は、貴女が言うがままに動くというストーリーはいかがでしょう?」
どうせ彼女の策略に乗らなければならないのなら共犯者のほうがいい。神のごとく力を振るう彼女をただ1人翻弄できる人物という設定だ。
かなり背伸びした設定だが経験の差は僅か100年、彼女の前々生を含めても大差ないに違いない。これから何百年、何千年と続く生涯ならば、ごく僅かな差でしかない。
「えっ。私は悪役なの?」
「何を言っているんですか。世界を表から裏から操ろうとしているんですよね。悪役に決まっているじゃないですか。」
彼女の中では自分を傍観者にするつもりだったのだろうが、そうはいかない。
「・・・はぁ・・・どれだけ生まれ替わっても悪役なのね。」
「そこでひとつお願いがあります。」
「何・・何でも言って・・・どんなことでも叶えるわよ。」
ようやく主導権を取り返したと思っているのだろう。表情が元に戻った。
「僕を『魔王』と呼ばせないで!」
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