では最後の質問です
「やっぱり、止めておきます。」
「ちょっと、ちょっと。それは無いでしょ。聞いてよ。」
「聞きたくありません。貴女は一番卑怯な手段で人にいうことをきかそうとしている。」
「ぐっ・・・。」
偶然アレクサンドラ様の直系であるポルテ家に生まれ、偶然公爵令嬢クリスティーナ様の誘拐事件に関わり令嬢を助け、これは後で偶然では無いと聞いたが公爵令嬢に皇太子の護衛として抜擢され、偶然畏怖される家系に生まれた公爵様に目を付けられたことで日常的に恐怖に晒され続け、偶然魔王サクランに似ていたがために裏後宮で死霊王シロヴェーヌ様と面会の機会を得た。
こんなに偶然が続くはずが無いのだ。
本当に偶然アレクサンドラ様の直系に生まれたんだろうか?
そこに何らかの意図は介在してなかったのか?
仮説でしか無いが恐怖に耐性があるような家系に子孫との出会いを演出してなかったか。
本当に偶然公爵令嬢誘拐に関わったのだろうか?
僕の性格と恐怖への耐性が高いと知った上で公爵令嬢誘拐に出会わせなかったか。
皇太子の護衛も裏で糸を引いていたのがアレクサンドラ様だったとしたら、必然的に公爵様の恐怖にさらされ続けることになる。
本当に偶然魔王サクランに似ていたのだろうか?
なぜ、この方は幻惑王と呼ばれているのか。似ていると錯覚させることぐらいはワケがなさそうに思える。
クロノワール様も言っていたじゃないか。元人間だから似ているかもしれないと。あの場ではシロさんさえ錯覚させれば事は済むのだ。ほとんど似ていなかったのかもしれない。それどころか魔族にとって人間はどのように見えているのか。
他にもまだある。
シロさんに触れたあと、緑樹王マッチャロール様に世界樹の果実を食べさせるように助言しなかっただろうか。
ラシーヌ伯爵と公爵令嬢の因縁を知りつつ、情報を公爵夫人に流れないようにしていたとしたら。
いや、これは危険過ぎるか。傍に幻惑王が居ないし、公爵令嬢が死んでいた可能性も十分あったハズだ。
僕が世界樹の果実を食べた時点でいつ死んでも今の状況になるはずだから、もっと先。例えばこの旅の途中とかで誰かが危機に陥ったとき。一番戦力にならないであろう公爵令嬢がミーちゃんを庇う体勢となれば必然的にこっちに負荷が掛かる。
さっき幻惑王は危険になれば、自分が裏後宮に連れて行くと言ったじゃないか。つまり、この旅には危険となる要素があるのだろう。
そもそもアレクサンドラ様が死んだというのも本当になのか。転生して偶然魔界の王の後継者として産まれてくるなんてことがあっていいのだろうか。
目的は何だ。
目的は・・・目的は・・・もしかして『魔界と人界の人々が仲良く暮らしました。』なのか。それに向かって進んでいるとすると打つ手は無い。邪魔が出来ないじゃないか。そう告白されたら、賛同するしか無くなる。
だが勇者のアレクサンドラ様とて神じゃない間違うこともある。僕にだって譲れないことのひとつやふたつはあるのだ。
「では3つほど質問してもよろしいですか?」
「もちろん、いいわよ。」
聞く気になったと思ったのだろう。
悔しげな表情から笑顔に戻る。
怖い。シロさんよりも公爵様よりも僕は心底怖いと思った。
まさにこの世界では神同然の人間に対峙しているのだ。怖くないわけが無い。
「僕がそれを行ったとしてシロヴェーヌ様は幸せになりますか?」
魔界や人界の人々が幸せになっても、シロさんが幸せにならなければ意味が無い。シロさんが不幸になるのならば、魔界や人界の人々にどれだけ罵られようとも絶対に阻止しなければならない。
「もちろんよ。今の幸せな状態がずっと続くよ。」
なるほど、大体読めてきたぞ。
普通ならば、こういったときの答えは『もっと幸せになるよ。』と答えるはずだ。
実質的にも伴侶となれば、もっと幸せにしてあげられるはずなのだ。
それを答えられないということはシロさんが嫌だと思うかもしれないが受け入れられないほどでは無いということなのだろう。
シロさんがどうしても嫌ということであれば、その場で反旗を翻せばばいいだろう。
「次は、僕が幸せになりますか?」
少なくともシロさんが幸せということであれば、シロさんに目の前から居なくなるということはあるまい。
「君は生涯、シロヴェーヌ様の傍に居ることになる。それは幸せに結びつかないのかな?」
やはり、そう答えてきたか。
「でもシロヴェーヌ様の傍に居るだけじゃないのでしょう?」
「もちろんそうだ。2人っきりで籠もって貰っては困る。仕事もあるし、やってほしいこともある。自ら考えて行動することも必要だ。」
普通、勇者がこんなことを考えるのか?
有り得ないだろう。
考えは纏まってきたが、それを考えついたのがアレクサンドラ様というところで引っかかりを覚える。
でも本人しかわからない問題のようにも思える。
「では最後の質問です。貴女、勇者であるアレクサンドラ様は幸せになりますか?」
本人が幸せにならないのであれば、どんなに完璧で素晴らしい理想郷であっても賛成できない。
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