僕はどうしてもそれが知りたい
「ねえ皆。この子供はどうすればいいと思う?」
改めて皆に聞く。母親と子供を離れ離れにするのは可哀想だけど、何があるか分からない魔界に連れて行くのは不安だ。でも彼女が馬車に同乗するつもりは無いみたいなので、誰かがこの子の面倒を見る必要がある。
「「「「連れて行きたいっ。」」」」
イヤイヤイヤ。皆の欲望を聞いているわけじゃなくてですね。
「危なくなったら、私が『転移』魔法で裏後宮に預けてくるよ。だから世話は任せてくれないか。」
1人傍観者のように立っていた幻惑王が呟いた。そんなに触りたければ触らせてもらえばいいのに。クールなフリをしても中身がホット・・・いやギャグなのは皆知っていることなのに。
「ユズシェル様。痴女行為はご法度ですからね。」
痴女行為?
「言うな。あれは人生の汚点だ。」
「あーあ。この方は獣人に抱きついて痴女扱いされたんですね。あんな風習は90年近く前に無くなりましたよ。残っていても獣王様周辺くらい。でも事前に確認してくださいね。」
なるほど勇者アレクサンドラだった時代に痴女扱いされたことがあるから、ジッと我慢していたんだ。
「そうなのか? 50年前にも事前に聞いて了解を貰ったにも関わらず痴女扱いされたぞ。」
「若い男の子でしたでしょ。時々居るんですよ。ガキ大将みたいな奴が・・・運が悪かったんですよ。女性に聞いてください。同姓ならまずそんなことはしません。」
若い男の子に触ろうとするなよ。当時60歳を超えていたはずのアレクサンドラ様が人族の若い男の子に抱きついていたら、痴女扱いされても仕方がないに違いない。
「なるほど。獣王周辺なんてガキ大将の集まりだからな。」
「あれっ。獣王とお会いしたことがあるのですね。代々獣王は魔界の方々と会いたがらないものなんですが。」
「そうなのか?」
「ええ。獣王のハーレムに魔界の女性を入れたところ、その女性を中心としてハーレムが形成されてしまったとかで。ケツの穴の小さい獣王でしょ。戦いと子作り以外は役立たずなのが獣人の男どもだから諦めているんですけどね。」
「あれ待てよ。まさかと思いますが僕の背中のことを知ったのは、蘇生したときの前後の記憶が無くなるのを良いことにイロイロ痴漢行為をしたからじゃないでしょうね。」
「あの時、人払いをさせたのは・・・。」
「物凄く時間が掛かっていたのは・・・。」
公爵夫人に公爵令嬢と続々と状況証拠が揃っていく。
「ハハハ。ソンナコトシマセン。ワタシハマカイノオウナンデスカラ。」
動揺したのか目をそらして否定する。
どうみても何かをされたとしか思えない。
うわっうわっ。もうお婿にいけない・・・なんて思わないけどね。男の子だから。
でも最低。命を救ったんだからってそんなことするかっ!
僕の勇者様のイメージはズタズタだ。まあ元々良かったとは言い難いけど。
「「「幻惑王っ!」」」
皆、心の中で『最低』と思ったはず。
「いいじゃない! 寿命を削って救ったんだから、少しくらい役得があっても。触っただけよ。10歳の男の子に手を出したりしませんって。ユウヤじゃないんだから。」
えっ。
「寿命・・・あの時、しばらくしてお亡くなりになったのって・・・。」
とんでもない爆弾を落とされてしまった。
思考が上手く纏まらない。
何が何だかわからなく・・・何これ。
「今の無しっ! 無かったことにしてっ!」
「っても無理よねぇ。あーあ、モーちゃんを落とす最強の切り札使っちゃったじゃない。どうしてくれるのよ。」
1人になりたいからと部屋に引きこもったというのに、幻惑王が無理やり押し入ってきてくだらないことをぐだぐだと言っている。
「・・・・・・。」
「・・・ねえ黙らないでよ。そんなたいしたことじゃないんだってば、最大HPが減るだけ。若い頃なら1ヵ月ほどで元に戻ったんだけど老化は怖いねえ。人族なら116歳まで生きれば大往生よ。そのお陰でシロヴェーヌ様も救えたじゃない。結果的にOKだったのよ。」
「・・・・・・・・10歳の僕の命と貴女の命。どこに引き換える価値があるというのですか。」
僕を救った引き換えに勇者様が死んだ。
僕が一生を掛けてもアレクサンドラ様の1日分も世の中を良くは出来ない。
比較対象が間違っている。
誰が考えても僕の命のほうが軽い。
自分でもそう思うんだから、他人から見たら馬鹿げた選択だ。
でも・・・でも・・・良く考えろ。
そうか!
アレクサンドラ様の中だけは僕の命のほうが重かったんだ。
ようやく1つの考えに行き着く。
「・・・いったい・・・僕に・・何をやらせようと思っているんですか?」
大抵のことはできるアレクサンドラ様ができなくて僕ができること。それはなんだ。
「やっぱり、そこに行き着いちゃったか。聞く? どうしても聞いちゃう?」