幻惑王は素敵な策士です
この100人を越えるの随行員を従えた姫君の里帰りは幾重もの意味がある。
第1に『魔界が帝国の管理下に置かれていることを示すこと。』
1回目はアレクサンドラ様が自ら同行することで各国に安心感を植え付け、国民が勇者に敬意を示すことで魔界の各王への害意を封じこめたという話だった。
「実際にある国に到着した途端、石を投げつけるような人間も存在したのよ。そのときはワザと石が飛び交う中に私が降り立ち、飛んできた石が当ったのよ。私の顔から血が流れた途端、騒動は治まったわ。そこからは噂が噂を呼んで、決してそんなことをするような人々は現れなかったのよ。」
馬車の中で当時を思い出しているのか。ゆっくりと言葉を紡ぐ幻惑王の姿があった。
「策士ですね。」
本当は凄いカッコイイと思ったが、言ったら図に乗りそうだったので、あえて言わないことにする。
「そこは素直にカッコイイとか言ってよ。伝説にもなっているのよ。」
ぷうっと頬を膨らませて物凄く不満そうな顔をする。
相手が曾々祖母と思うと苦笑するしか無い。狙ってやっていないだけクロノワール様よりはマシだ。
もちろん、その逸話は聞いたことがある。
「その後、裏で噂を流すように指示したと祖母に聞きましたよ。」
そんな裏の事情は聞きたくなかったです公爵夫人。
「リオーナっ! そんなことをバラさないでよ。せっかくカッコ良く決めたのに。」
確かに彼女が持っていた情報網を使えば、人心を誘導することなど容易かったに違いない。
「手段はどうであれ、人界と魔界にとって最大級の成果をあげたことには代わりが無いです。たとえ、貴女が裏で操っていたとしても僕は称賛に値すると思います。」
この人は『勇者』として人界と魔界が仲良く歩んでいくためにその場その場で最大限効果があるように振舞ってきたのである。
「えっ。ヤダ。急に褒めないでよ照れるじゃない。」
本当に頬をピンク色に染めている。
褒めてほしいのか貶してほしいのかどっちなんだろうな。この人。
第2に『行きと帰りに人界の多くの国々を経由することで多く金銭を落すことで戦後復興に役立てること。』
「名目上は全ての費用を魔界側が持つことになっていたわ。実際にはそんなお金は何処にも無くて10年ほど皇室予算から出して頂いたけど。」
幻惑王が申し訳無さそうに言う。
「そのためにお金になりそうな異世界の技術を皇族の方々に渡していると祖父から聞きました。」
公爵夫人の祖父や祖母はアレクサンドラ様と近しい関係にあったようだ。
「我が男爵家でもレシピ本のお陰で随分儲けさせて戴きました。でもその所為で誘拐・監禁されましたけど。」
祖母が降嫁してくるときに頂いたというレシピ本のお陰でヘイム商会が人界で売るお菓子の仕入れ先としてポルテ商店直営の製造工場を選択して貰ったことで多額の契約金や毎月一定の利益を上げさせて貰っている。
だが、このレシピ本の所為で内偵先の伯爵家で拘束され、それを命が危ないと勘違いした公爵令嬢の救出作戦を断行した所為で『死に戻り』まで体験するおまけがついてしまったのだ。
「その節は、私の勘違いのために大変な目に遭わせてしまって、どうやってお詫びすればいいのか。ずっと考えていたんだけど答えが出なくて。どうしたらいいでしょうか。」
公爵令嬢が馬車の中で土下座をしていた。拙い。公爵令嬢が居るのを忘れていた。
土下座されて困ってしまう。逆ギレされないことを祈るばかりだ。
「そうねえ。性奴隷なんかどう。子供が出来ても公爵家で引き取りますからバンバン犯っちゃってください。」
それを母親の貴女が言いますか。
第3に『王としての権威の維持が必要だとか。』
たとえ魔族にとって短い200年であっても途中で権力の掌握ができなくなっている王を拘束しても何の意味もないからだそうで、年に1度とはいえ『王の帰還』は重要な意味を持つそうだ。
「私が情報網を整備するついでに流通網も整備したから、極秘の決済書類も王の下へ届くようになったけど、それまでは王にしか決済できない書類を3日3晩掛けて目を通して決済を行なっていたのよ。」
3日3晩。机の上に積み上がった書類の束を想像する。いくら魔族が寝なくても大丈夫でも疲労困憊だろうなあ。クロノワール様だけは分体にやらせてそうだけど。
「今、コソっと自分の手柄にしましたね。情報網に書類の受け渡しもできるように帝国側から働きかけるのにいったいどれだけの時間とお金が掛かったと思っているんですか。しかも情報網の綻びを人質に取るやりかたで脅迫までして。お陰でストックしてあった諜報部の裏資金を使い切ってしまいましたよ。」
そうか。幻惑王も帝国に来ると同じ運命が待ち受けていたから、事前に手を回したのだろうな。
やっぱり、この人は策士だ。それが皆のためになったことはこの人らしいけど。