物凄く分かり易い勇者さまです
「なんだ。こんな女たちも相手に出来ないのかい。情けないねえ。」
一番最後から魔族が1匹出てくる。頭に角、背中に小さな羽が生えているところをみると妖魔の一種と思われるが他は人族と変わりない。
全身の所々が色を塗ったかのようになっているけど、上半身が裸なのは如何なものだろう。
そういえば、シロさんとユズさんは人型だが、本当の姿は別にあるのだろうか。凄く気になる。
「ボス。そんなことを言っても、この女強いんでさあ。」
「ボスって呼ぶなっ! お嬢に付けて頂いた名前があるんだからね。ボヤッケン。」
「へえ。ドロン・レディー。」
「ワザワザ、そんな強そうな女騎士のほう行かなくても、ここに可愛い坊やがいるじゃないの。」
こちらがムッとする間もなく。スルリとこちら側に入り込んできて捕まってしまった。
なんだ?
全く目で追えなかった。気がついたら、その大きな胸に抱き込まれてしまった。
「モーちゃん! アレ出して、インロウ、インロウ。」
ユズさんが『フン・フン・フフフン・フン・フン・フー』と変な調子の鼻歌を歌いながら、耳元で囁いてくる。ウザイ。そんな暇があったら助けろよ。
インロウ・・・あっそうか。異世界の薬箱を印籠というんだっけ。
シロさんに魔力を込めて貰った宝石を入れてあるんだった。
僕はマジックボックスからそれを取り出す前に空いていた左手でしっかりと捕まえてっと。右手に印籠を取り出した。
「えっなんでっ!」
印籠から死の恐怖が流れ出し、僕を捕まえていた妖魔どころか、左手で捕まえたユズさんと僕以外の生き物たちが一瞬にして居なくなった。
「ほら、口上を言う。間抜けだろ印籠を出した当人は置き去りで遠くのほうから口上を言うのは。」
「『ひっ』・・・ここ・・に・・・おわすかたを・・・なんと・『ひぃー』こころえる。さきのフクショウグン・・・あ、間違えたっ!」
「やり直しだ! ほらテイク2。」
「ちょっと近付けないでって・・・。ここにおわすかたをなんとこころえる。死霊王の伴侶ことモトラビィチ殿にあらせられるぞ・・・早く、早く離してっ!」
よっぽど怖いのか。早口でまくしたててくる。
「早すぎだ! テイク3。」
テイク11まで進みようやく満足できる口上になったので、ユズさんの手を離す。
僕はそのまま、印籠をマジックボックスにしまった。
「はぁ・はぁ・はぁ・・・なんてことをするのよっ!」
ユズさんは疲労困憊で地面に寝転がりながら、抗議をしてくる。
「だって練習したかったんだろ。なんなら、もう一度やってみるか?」
僕はそう言ってマジックボックスに手をかける。
「や・・・止めてっ!」
「すげぇー、魔界で知略では右に出る者は居ないと言われたお嬢を手玉に取っているよ。みんな見たか・・・あれが死霊王の伴侶の力なんだなぁ。」
妖魔はあんぐりと口を開けて、僕たちのやりとりを見て呟いている。やっぱりな。
「なんで、ヤラセだとバレたのよ。」
疲労困憊だったユズさんに問い詰めるとあっさりと白状した。抵抗する気も起きないくらい疲れたらしい。幻惑王とその部下による自作自演だったらしい。
「この関所、裏から見るとハリボテだし。このお姉さんは夢魔だよね。ということは、幻惑王の部下じゃないかと思っただけ。」
ここにさしかかる少し前から、急に静かになったんだよね。この人が静かになったら、寝ているときか何かを企んでいるときと今までの経験がそういっているのだ。
これから先も、どれだけ仕込みがあるかわからないから言わないけど。
「なんで私のことになると急に鋭くなるのよっ!」
こうやって自意識過剰なことを言ってくるときはイジって貰って誤魔化そうとしようとしているときである。
「さあ、ユズさんのことを愛しているからじゃないかなぁ。」
僕が定番の返しをしてみると真っ赤な顔で口をパクパクとしている。そうそう、この顔が見たかったんだ。僕の嗜虐心はユズさん限定ででてくるのも愛しているからなんだろう。
この程度のヤラセに引っかかるなんて、魔族ってよほど脳筋・・・いや考えなしなんだろう。
決して戦闘にはなりません。
何故なら印籠が最強の凶器だからです(笑)




