彼女は儲かったから良いらしい
「死霊王の伴侶だと。それは本当のことなのか。」
コロシアムの中には里帰りの一行と族長以外には観客どころかハーフエルフたちも居なくなってしまった。今頃、エルフの里の外に逃げ出していっているに違いない。
「私が嘘を言ってどうするのよ。魔界の王の夫になる方が只の人間だとでも思っていたというの。それにその鏃の毒が効いて無いでしょ。緑樹王に夫でもあるから、貴方が使うような状態異常に耐性を持っているはずだわ。」
「ええっ。緑樹王の体液を摂取したら付くと言われている伝説の加護のことか?」
体液って・・・世界樹の果実を直接齧ったことだろうか。なんかとんでもないオプションがついているんですけど。
「そうよ。」
「そうすると俺が彼に対して風魔法を使ったら、跳ね返ってきたということなのか?」
さらに凄いオプションがついているらしい。
「貴方たちが使う風魔法は目に見えない妖精たちが寄り集まって行使するものでしょ。彼をキズつけるはずが無いわ。実際に魔王相手に使って仲間を傷つけてしまったものね。あれと同じよ。」
どうやら世界樹の果実の効果を持つ人には、そのような副次的効果があるらしい。朝、元気・・・いや再生されるだけでは無かったらしい。
つまり僕はエルフにとってとてつもなく相性の悪い人間だったようだ。
「じゃあ、俺に勝機は全く無かったということじゃないか。負けた。負けた。バカバカしい。」
うん。僕もそう思う。こんな衆人環視の中で大袈裟過ぎるコロシアムでの戦いにしなくても良かったんじゃないのか?
「そうでもないわよ。そうね。試合開始直後にその足に装備している匕首で相討ちに持ち込めば何とかなったかもしれないわよ。」
「勝負にだけは勝つが俺だけ死んで、コイツは『死に戻って』くるだけじゃないのか。」
「良くわかっているじゃない。」
「そうすると俺は魔王相手に勝負を挑んだワケかよ。ありえねえだろ。勇者が新たな魔王に仕えているなんて。」
「彼は魔王じゃないわ。モーちゃんよ。誰かが彼の愛するものを奪うようなことが無ければ、いやそれでも魔王になんか変貌するはずが無い人間よ。」
そう僕は・・・僕だけは、そうなってはいけない。復讐心に燃えた人間になってしまえばユズさんが命懸けで止めにくるはずだから・・・。
「どうしてくれるんだよコレ。ハーフエルフは待っていれば戻ってくるだろうが、客は当分戻って来ない。いや風評被害で10年は戻ってこねえぞ。やっとの事で軌道に乗ってきたっていうのによ。」
族長は誰も居なくなったエルフの里を見回して溜め息をついている。
「知らないわよ。貴方がいつまでも諦めないのが悪いんでしょ。いつも言っているじゃないエルフにとって10年なんて時間はあっという間でしょ。」
「そりゃあそうか。10年なんてすぐだよな。」
おいおい、それでいいんかい。
☆
誰も居なくなった宿屋戻ってきた僕は、満足したかのようにしみじみと酷いことを言い出すユズさんをまのあたりにした。
「これでエルフの里も彼の代で終わりね。風評被害なんてものは定期的に流れるものだから。」
それって、ユズさんが裏で噂を流すと言っているようなものじゃないか。
「も、もちろん。私も手をこまねいているわけじゃないわよ。裏の人間に頼んで居なくなったエルフたちを捜すように指示を出しているし、ハーフエルフを保護する条件で周辺国に土地を貸し出すように交渉するわよ。」
僕がジトっと睨みつけるようにみていると焦ったように言い足す。
初めから計画的だったようだ。
「これで当分はあの男の顔を見ないで済むっていうもんよ。」
どうやら、これが本音らしい。よほど族長の求愛が鬱陶しかったのだろう。
「まあいいじゃないですか儲かったし。」
クロが魔法の言葉を口にする。
客たちが逃げ出したため、里帰りの一行に払い戻したお金以外、翌日朝とされていた払戻金もすべて胴元であるヘイム商会のものである。
商人にとって儲かるか儲からないかが重要で他はどうでもいいのだ。
その気持ちはわかる。わかるけど僕は全然儲かっていないのだ。
「そうそう。シロさんの力を誇示する練習台になったし。」
こんな情けない戦いを続けなくてはいけないらしい。
この憤りをどこにぶつければいいんだ。
よほど僕が不満そうな顔をしていたのだろう。
ユズさんが三つ指をついて僕に頭を下げてくれる。
「ご苦労様でした。私のために戦ってくれて嬉しかったです。今日はたっぷりとサービスするわね。」
ユズさん?
そう言いながら、手をワキワキするのは止めてほしいな。
その夜の閨での戦いは先行勝ち逃げを一瞬の隙を突かれ、疲労困憊になったのは言うまでもない。
主人公が活躍する場所?
無いです。あくまでハーレムものなんで(笑)




