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11(リサ視点)

「あなたは本当に仕方が無いわね」


 ジュリエンナが握りしめているハンカチを取り、彼女の目元にそっと押し当てながら私は笑い掛けました。


「私が考えなしなのは分かってるわ。でも、あの方はずるいわ」


 ずるい? ジュリエンナから出たとんでもない言葉に、私の笑顔は一瞬で引きつったものに変わりました。

 ずるいって、その言葉はまさかフィオリーナ様に向けてのものなのでしょうか。ここに来てまだ暴言を吐こうとしているわけではないでしょうが、なぜ『ずるい』という言葉が出てくるのでしょう。


「お、怒らないでっ。だって、ずるいでしょ。あんなに綺麗で儚げで、妖精みたいなのよ。分かっているわよ。普段お化粧もせず制服を着ているだけでも綺麗なのだもの、髪を結い上げて大人の様に装ったらどれだけ美しくなるかなんて私にだって予想出来ていたわ。でも、同じ様なドレスなのにあんなに綺麗なんて、そんなのってずるいわ」


 それは『ずるい』という言葉で言い表すべき事では無いのではないかしら。正直なところジュリエンナのドレスは彼女の魅力を引き立てるものではなく、その分フィオリーナ様と差が開いた様に感じてしまったのだろうというジュリエンナの気持ちは理解出来るものの、だからといって『ずるい』という言葉を肯定するわけにはいかず、私は引きつった笑顔のままハンカチを畳み手渡しました。


「ジュリエンナ。あなた……」


 フィオリーナ様は顔立ちは言うに及ばず、華奢な体に細く長い指、手入れの行き届いた髪に至るまですべてが美しいと評判の同年代が憧れる令嬢なのですから、綺麗なのがずるいと言われても彼女の方も困惑するでしょう。

 それにジュリエンナだって綺麗な顔立ちをしていますし、それにフィオリーナ様には無い華やかさがあります。綺麗の方向性が違うのだと、そう話す事は簡単です。それでジュリエンナが納得すれば、ですが。


「くっくっく。ずるいか。そうかそうか」

「え。あ、申し訳ありません。あの、これは悪い意味ではなく、あの」


 突然クラウビィン侯爵が笑い声を上げ、私はぎょっとして弁解を始めました。

 幸いな事にクラウビィン侯爵はジュリエンナの愚かな行為に呆れてはいても激怒はされていない(様に見える)様ですが、でも愚かな行為の原因が『ずるい』だと知って笑うというのはどう解釈したらいいのでしょうか。

 私は冷たい汗が背中に流れるのを感じながら、どうやって言い訳をしようかと無い知恵を絞りましたがこんな馬鹿な発言を弁解するだけの言葉は見つけられそうに無く途方に暮れるばかりでした。


「ジュリエンナ謝って」

「あ、あの。申し訳ありませんでした。今回の事はあの、私が考えなしだったと思います」


 ジュリエンナと一緒に深々と頭を下げながら、クラウビィン侯爵の言葉を待ちました。

 謝るという行為を私以外の人に行った事が無いジュリエンナにしては、良く出来た謝罪だと思います。

 棒読みで、謝罪の気持ちが本当にあるのかと思われそうな話し方でしたが、自分で考えなしだったと反省しているのです。出来たらクラウビィン侯爵には、他人には理解しにくいジュリエンナの反省の気持ちを察して頂けたらと、願わずにはいられません。


「お前の娘、お前そっくりな性格だな」

「なんというか、言い訳しようがないな」


 クラウビィン侯爵と叔父様はそう言って顔を見合わせた途端、大笑いを始めました。


「叔父様」

「お父様が笑ってるわ。お母様まで」

 

 笑う叔父様達につられた様に、叔母様達までが声を出して笑い始めました。

 気難しい叔父様が大笑いするなんて、初めて見る光景です。それに加え叔母様達までこんな笑い方、貴族の婦人がこんな子供の様に笑うなんて。

 私達は呆然とするしかありませんでした。

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