もう一つのクリスマス
12月25日、クリスマス当日に山森健一は、駅前のロータリーである人物を待っていた。
「こんな手紙を用意して何のつもりなんだ?」
彼はその手に持つ封筒を見てそう呟いた。その封筒にはこう書かれていた。
『山森健一様へ』
その中身である手紙にはこう書かれていた。
『山森健一様へ この様なお手紙による挨拶失礼致します。山森様には、今月の25日のご予定を空けておいて頂きたく送らせていただきました。当日は、ご予定の方がなければ、川越駅のロータリーにてお待ちください。なんて、堅苦しくやってみたけど、私らしくないので、普通にします。12月25日に川越駅のロータリーで待ってて。服装は、正装してきて。じゃあ、当日楽しみにしてるからね。 綾川結衣より』
「結衣の奴、何考えてるんだ。一応、正装はしてきたけど……」
健一は、手紙に書いてあったように、しっかりとした正装に身を包んでいた。
「それにしても遅いな」
健一は、駅前のロータリーで愛しの彼女を待っていた。しばらくして、走って向かってくる人影が見えた。
「ごめん、お待たせ」
「……大丈夫だ。今さっき来たところだから」
「そっか。それじゃ行こっか」
「行くってどこに?」
「後でのお楽しみ」
そう言って、結衣は健一の腕に自分の腕を絡ませて、目的の場所に向かった。
「なぁ、どこに行くんだ?」
「もうすぐ、着くから」
「もうすぐって……」
しばらく進んだところで、結衣は立ち止まった。
「着いたよ」
「着いたって、ここは……」
「ずっと、来たかったの。健一と一緒に。ここのレストランから見る夜景を1度でいいから、一緒に見たかったの」
「1度だけじゃない。これから毎年、一緒にここに来よう。これから先、何度でも」
「健一……うん、約束だよ」
その後、二人はそのレストランでクリスマスディナーを食べ、クリスマスの思い出を作った。
これは、ありえたかもしれないもう一つのクリスマス。
♢ ♢ ♢
「なんて、馬鹿な話はないか」
「ん、何か言った?」
「何も言ってないよ、涼子」
「この後はどうするの?」
「そうだな。家に行くか」
「健一の家?」
「それでいい?」
「いいよ。健一になら、何されてもいいから」
「そんな事言うと、本当にしちゃうよ?」
「いいよ、健一のすきなようにしていいから」
「それじゃ、家に帰ろっか」
「ふふふ、今夜ははげしくなりそうだね」
そして、二人は寄り添いながら健一の家に向かった。その夜、お互いの体も心も一つになった。その後、同じベッドの上で裸のまま向き合い、お互いの温もりを確かめるように、眠りについた。