随筆/山形交響楽団コンサート ノート20161116
2016年11月13日日曜日。晴れた穏やかな日で気温は20度を超えた。その日、指揮・飯森範親率いる山形交響楽団の演奏会が、私の地元・福島県いわき市で催された。会場はバブル時代に計画され、3.11震災で基礎がやられて補強工事をした、川沿い・道路を挟んで市庁舎隣の、芸術文化交流館アリオス。母とでかけた。開演は15時で終わったのが17時。
早めについたので、付設レストランで時間を潰した。
硝子越しに公園が望め、そこから、毎度日曜日の催しものがなされていた。その日は、ご当地アイドルグループの野外コンサートがあった。フリルの付いたドレスの十名弱が二列になって踊っていた。小学生の高学年が主体で、低学年の子が1人混じっていた。とても小さい。周囲にいたのはDJ、親たち? 次の順番を待つ少女たち。
母とパフェを食べ、芸能評論家になっているうちに、時間になった。会場にゆく。入口は2階だが指定席は1階というのが嫌味な施設に思えた。
オペラもできる、バルコニーをもった大ホール。席は舞台から3つか4つめの列で、けっこう近いところにあった。会場は、ほぼ満席だ。
前半が、ゲストに迎えたオーストリア人ヴァイオリニストのライナー・キュッヒルを主役にしたもの。壇上の椅子が人数より少ないのが気になった。団員がチューニングを始めた。年配の人たちが多い。後ろに隠れたビオラ演奏者女性がもっとも若く、それから最前列にいた花形と思われるヴァイオリン演奏者女性が次いで若いように思われた。指揮者を囲んでいるのがメインになる演奏者で、ヴァイオリニストばかりだったと思う。左手の中年男性と並んだ一つ奥の女性が、よく目配せし合っていた。それから一番右側にはノッポな初老男性がおり、奥側の椅子二つが空席になっていた。
男性は小柄なドワーフのような背格好をした人が多い。背の高い人は後方で、コントラバスとか比較的大きな楽器を演奏していた。
指揮者は40くらいであろうか、長髪でやはりドワーフ系。結婚指輪をはめていた。
女性は細身の人が多い。
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前半の演目
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モーツアルト 歌劇「フィガロの結婚」K492序曲
モーツアルト協奏曲第5番K.219 「トルコ風」
ゲストが独奏し、アンコールを一つやった。
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後の夫妻とお友達が、ベートーヴェンが散歩した道をいったとか、前回のコンサートではいい楽団がきたのに空席が目立ち(民度の低さが露呈され)先方に対し気の毒な感じがしただの、通じみた話を延々としていた。私はそのさえずりが演奏時間に喰い込むのではないかと冷や冷やしたが杞憂に終わってよかった。
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休憩15分を挟む。
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後半、ゲストのヴァイオリニストが退場。指揮者を囲んだ、メインの団員はそのままだが、少し配置換えあった。空席部分に団員が補填された。指揮者が、モーツアルトの生い立ちやベートーヴェンとの関わりを述べた。
両者とも父親の英才教育を受けており、母親がマリアという名前が共通。師匠ハイドンと不仲だったベートーヴェンはモーツアルトに弟子入りしようとしたが面会はならなかった可能性が高いとのこと。
モーツアルトは、父親の宣伝活動で社交界に名を売った。最初、司教が治めている町の専属音楽家だったのだが、だんだんオーナーと反りが合わなくんって、ウィーンに赴く。そこでは映画『アマデウス』で悪役だった音楽家が幅を利かせていて思い通りにならない。濫作して体調を崩し客死した。
そんな話を曲の合間でしつつ、また、山形名物の果物の抽選を10名様限定でやった。箱から客席番号のあるクジをとりだしては読み上げた。母が夢中で聞き耳を立てていた。しかしなぜだか、私と母が座っている列は抜けて、1つ前の列と2つ後の列に数名ずつ、当選者がでた。――お喋り夫婦が、「この列だけ素通りしている」と失笑していた。
もらえるものならなんでも――といわんばかりに、母は必至の形相だった。
洋梨〝ラフランス〟は、コンポートにすれば美味いが手間だ、そのまま食べるとドロッとした食感で、日本の梨〝豊水〟に馴れた私の口には合わない。――というか、食卓に上がった試しがない。……母も口にしない。食いもせぬものをなぜ欲しがるのだ?
壇上、もっとも右側の列、初老男性の隣に、トドのような体型をした女性ヴァイオリニストが座った。そのむこうに、やや年若い男性が座っていたのだが、女性のためにみえない。演奏中に弦がみえたのでその姿を確認できた。
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ここで妄想劇。
最前列のメインヴァイオリニストが突然死する。殺人事件だ。犯人は誰か。容疑者は指揮者、被害者の一つ奥にいる女性、そして、かなり奥にいるビオラ奏者女性。動機は愛憎のもつれ。最初は指揮者、ついでヴァイオリニスト女性が疑われるのだが、トド系女性の証言が決定打となり、〝名探偵?〟私が見事解決!
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後半の演目
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ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調op.68「田園」より第1楽章
モーツアルト 交響曲第1番変ホ長調 K.16より第2楽章
モーツアルト 交響曲第40番ト蝶々 K.550より第1楽章
モーツアルト 交響曲第41番ハ長調 K.551より第4楽章
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カーテンはないけれど、カーテンコールになって、一曲おまけ。こういうとき、ヴァイオリンなどの弦楽奏者は、弓で弦をポンポン叩いて、聴客に拍手を促す。
指揮者にいわせると、(モーツアルト没後に楽譜を整理した友人ケッフェルによるものか)楽譜に、「これはモーツアルト作ではない」と書かれているのだが、とてもモーツアルト的でもしかすると本人の作品かもしれないという曲を披露した。曲名は忘れたが、いい曲だった。贋作の烙印を押されているのだからお披露目されていない、お宝コレクションなのだろう。
ゲストと指揮者がいっていたが、会場のアリーナは音響が素晴らしくてまた来たいといっていた。ほう、市が負債を抱えるバブル期遺産の箱モノも、そっちの関係者にとって、好評らしい。ありがたや、ありがたや。
ノート20161116