読書/ジル・ペロー『かげろう』 ノート20160927
ジル・ペロー 著 『かげろう』 感想文
作者ジル・ペローは、フランス1931年生まれで、アルジェリア独立戦争では、空挺旅団に属して戦った。左翼様であるようだが、もっとも勇敢とされる戦闘部隊での従軍経験は反戦ものといえば納得してしまう。しかし、個人的には、ふつうに、禁断のメロドラマとして捉えていいと思う。
ラブ・ロマンスに必要なものは障壁だ。恋人二人は一緒に障壁を乗り越えなくてはならない。この場合は、単純に数日間の死地を脱することが、テーマになるのだろうか。
内容は、パリ陥直前、ナチスの蹂躙から逃れる避難民が地方に逃れようとしていた。美貌のブルジョア層ヒロイン「私」と幼い子供二人もそのただなかにあった。その列にドイツ機が銃弾を浴びせる。しかも食糧はなく飢えている。そんなか、野生児然とした少年が現れ母子を救った。――途中、兵士にであうが、前線とは逆の、ヴィシーにむかって逃げていた。避難民を護ったり、ドイツ軍に抵抗する様子はまるで感じられない。
少年は、先に避難して空き家になった家に、母子を案内。同じく主がいなくなった店舗から食糧を調達してくる。ひと心地ついていると、フランス兵たちが、家にあがりこんできて、「私」を強姦。さらに幼い娘まで襲う空気だ。そこへ少年が駆け付けて、兵士たちを刺殺し母子を救った。
「私」は、少年に、ご褒美に身体を与えた。軍役に就いて不在の夫では味わえない、蜜のようなエクスタシーを経験した。だが少年との甘い日々は『かげろう』のごとくほんの一瞬の出来事だった。逢瀬の直後、今度は憲兵があがりこんできて、少年を窃盗罪で逮捕してしまったのだ。もちろん「私」は幼い恋人のために、――国家が情けないから自分たちは路頭に迷ったのだ。道中、緊急避難措置として、元の主が放棄した食糧を頂いたが、いけないのですか? その子がいなければ、自分たち母子三人は死んでいた、と訴えた。
指揮をとっていた憲兵下士官にいわせると、――フランスはドイツに降伏し、協力内閣ビシー政権になった。治安が回復したので自分は少年を逮捕したのだ。この少年はもともと札付きのワルでパリの少年院にいたのだが、ドイツ侵攻のどさくさに紛れて脱走したのだ。大人になったら死刑になるような輩だ、――と毒づき、車に乗せ、連行していった。
生き延びた「私」は、夫が待っているはずの町に子供たちを連れて、再び歩きだした。
蒸せるような夏の悲恋。
物語は全18節3-121頁。1頁あたり14×36≒600字。400字詰め原稿用紙換算200枚弱で構成される中編だ。本作は早川書房にしては珍しいハードカバーで刊行されていた。
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*ジル・ペロー『かげろう』菊地よしみ 訳 早川書房2003年
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