読書/坂東眞砂子『傀儡』 ノート20160927
坂東眞砂子『傀儡』 感想文
鎌倉時代は源氏が三代目にして断絶して前期が終息した。幕府は朝廷から親王を迎え、名ばかり将軍職につけ、裏では傀儡師が操り人形〝傀儡〟を操るがごとく、実力者である執権・北条時頼が将軍を操っていた。
さらにまた、当時の世界は、地頭職の御家人が、荘園を支配する領家を裏で支配していた。人民は農奴で土地を自由には移動できない。しかし例外もあった。聖と呼ばれる乞食坊主や傀儡師といった非人の存在だ。虐待されているかといえばそうでもなく、がんじがらめの世の中を、野垂れ死にになる運命と引き換えに楽しんでいる存在、いわば自由人として描かれている。
物語は、歌姫・叉香、難民・いぬ、聖・沙依拉夢といった三人の非人がそれぞれグループをなして登場する。
物語は次の通りだ。
京都から鎌倉にむかって、歌姫・叉香のいる〝傀儡〟の旅芸人一座が、川原者たる非人集落の横っちょ土手道を通過する。そこで瀕死の状態なった。難民の女・いぬとすれ違う。
いぬは焼畑の里で、夫と息子をもち、ささやかだが幸福な生活を送っていたのだが、そこに三浦家村とその郎党が襲い掛かって、土地を奪ったため、落ち延びてきたのだ。三浦家村は北条氏に滅ぼされた有力御家人・三浦氏の生き残りだ。家村は一族を抹殺した北条時頼に復讐すべく、焼畑の里を奪って食い扶持を得たというわけだ。
死にかけた、いぬを救ったのは、聖・沙依拉夢だ。沙依拉夢は西域の人で、中国・宋帝国の都で下働きをしていて、北条時頼に招かれた高僧・道隆に従って来日した。
最初、いぬがいた焼畑の集落を襲った武士の集団の存在は不明だった。そして、鎌倉をめざす叉香と一夜の契りをした、上級武士の存在もまた不明だった。
上級武士は源公暁と名乗った。源公暁は鶴岡八幡宮別当で、殺された二代将軍の息子だ。三十年ほど昔、叔父に当たる三代目が仇だと周囲に吹きこまれたので、隙を突いて暗殺し、そのまま行方知れずとなっている。
さて、いぬの亭主は実は生き延びていて山賊になり、街道を往来する旅人を襲っていた。傀儡一座と公暁を名乗る武士は、山賊に襲われる。武士は逃げ、叉香が捕らわれる。しかし天真爛漫で巫女のような叉香は、山賊たちに身体を与えて、楽しんでいる様子だ。山賊の頭というのが、いぬの亭主だった。
叉香の亭主が、地元の御家人に訴えて、山賊を捕えさせた。山賊たちは鎌倉に護送される。聖に救われた、いぬは鎌倉にむかい、亭主奪還を画策したが果たせず処刑されてしまう。
いぬの鎌倉滞在期間中、町中で行き倒れの死体処理をする非人の男・地魔爺と、相棒を組んで日銭を稼いでいた。非人仲間で一目置かれる、その男こそ、公暁。物語では探偵役だ。
処刑後、いぬは、故郷を焼き打ちした三浦家村をみかけてつける。家村は間道から、寺にむかった。そこでは盛大な宴席があって、傀儡一座が芸を披露していた。
傀儡の芸に幻惑された執権・北条時頼は、ふらりと庭にでる。そこへ三浦家村が暗殺しようと躍りかかるのだが、背後から、いぬが刺した。
事件後、叉香は、懐妊しているので子が産まれたら、いぬに養子としてくれてやるという。――いぬの実子は家村の焼き討ちにあった際、避難中に病死した。公暁は、まだやりなおせるから、その子を連れて故郷に帰れと促す。
聖・沙依拉夢も、不浄な下俗で自然に生きることに意義があるという悟りを得た。南宋出自の高僧・道隆の元門弟青年の口利きで、交易船に乗せてもらい、西域に帰ることになった。
プロットは、二章構成。第一章で序節と13節、第二章で16節と終節で構成される。8-445頁。1頁あたり19×45≒800字程度、400字詰稿用紙換算900枚弱(*上下巻二冊の合本に相当する)。
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* 坂東眞砂子 著 『傀儡』 集英社2008年
ノート20160927
ニーチェ『ツァルツトラ』のオマージュだ。




