読書/太宰治 『ヴィヨンの妻』 ノート20161107
太宰治 『ヴィヨンの妻』 感想文
太宰治『ヴィヨンの妻』1947年
●朗読・伊武雅刀 新潮社CD2009 CD1枚
●青空文庫
【概要】
15世紀半ば、まさに中世が近世に変わろうとしていたとき、フランス詩人・フランソワ・ヴィヨンが旋風を起こした。将来を嘱望されたパリ大卒業の知識人が、夜盗の群れに身を投じ悪行三昧を尽くす。そのくせ詩は革新的で、宮廷に招かれて朗読することすらあった。最後は野垂れ死にをしたらしい。
主人公・大谷は帝大卒の元男爵家二男の詩人。ヴィヨンに関しての論文を文壇に投じ一目を置かれてはいるものの、とんでもない不良で、あっちこっちの飲食店で酒を飲んではつけをため込んでいた。バーのマダムほか複数の女たちに貢がせ、なかには破産にまで追い込んだ女性までいる。物語の述者である、内縁の妻・さっちゃんもその一人だ。
さっちゃんは、浅草公園瓢箪池で父親とおでん屋をやっていた。それが詩人口説かれたというよりは惚れて愛の巣を自分で用意したという感じ。子供がいるのだが、栄養不足から熱病を患い医者にも診せられず、ついには発達障害を生じたようだ。小金井に借家しているのだが大谷はほとんど帰ってもこない。年の瀬も迫るころ、大谷がふらっと戻ってきた。様子がおかしい。いつもより優し過ぎる。
すると後をつけてきた、中野の小料理屋の夫妻が押し入ってきた。入れ違いに大谷が逃げ出した。
小料理屋夫妻の言い分はもっともなこと。戦時中に酒を散々飲んで膨大な借金をこしらえたうえに、店の資金を盗んで、逃亡したというのだ。――さっちゃんは駄目亭主でも、惚れた弱みがある。知り合いから金を工面するから、あと一日待ってくださいといって急場をしのぐ。
しかし実際はそんなあてなどない。時間の引き伸ばし工作で、知り合いがくるまで、店を手伝うといって、店に居座った。若く美人なのでたちまち店は大盛況。しかし嘘もいつかはバレる。さっちゃんがドギマギしていると、バーを経営している大谷の愛人の一人が盗んだぶんだけ借金を返済した。――しかし借金は戦時中にまで遡って莫大な額がある。
さっちゃんは、そこで、駄目亭主に代わって借金を返済すると申し出る。
店は大繁盛。しかし、雨の日に、閉店間際まで残っていた怪しげな客が、自分は大谷に憧れる詩人の卵だ。奥さまが一人で家路につくには危なすぎるから、家まで送ると申し出た。そして、夜更けにまた終電に乗り遅れたから泊めてくれといって強引に上がりこんできて、ものの見事に犯されてしまった。
そこから物語はラストになる。亭主がほとんどいない小金井の借家住まいは物騒だ。さっちゃんは、店の夫婦に頼み込んで、住み込みさせてもらうことにした。すると、大谷が酒を飲みに店にやってきた。さっちゃんは、大谷にそれとなく店の女将を掠め取ったでしょうと尋ねる。夫は否定しない。滅茶苦茶な関係だが、相思相愛。それでも夫婦関係は続いている。
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【所見】
よくまあ別れぬものだと感心するのだが、大谷には、女を魅了して離れさせない体臭がある。教養と育ちの良さ、容貌、そのあたりは太宰と同じだ。また、さっちゃんは、太宰最後の作品『人間失格』に登場する、よっちゃんと重複する感じがする。400字詰原稿用紙57枚、短編。
ノート20161107




