読書/村上春樹 『ノルウェイの森』 ノート20160513
村上春樹 『ノルウェイの森』 感想文
ラノベの成立には、村上春樹『ノルウェイの森』と田中芳樹『銀河英雄伝説』の二作が絶大な影響を与えたと、ラノベの入門書に書いてありました。そのうちの村上氏は、毎年、ノーベル文学賞の季節になると騒がれます。まあ、ラノベ系ですからね。いろいろ偏見はもたれるでしょう。そんな、村上氏の代表作『ノルウェイの森』の話。
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物語のはじまりは、ハンブルク空港、三十七歳の主人公ワタナベは、そこで流れてきた「ノルウェイの森」を耳にして、学生時代に、突然自殺した恋人、直子のことを思い出します。
直子は、もともと、高校時代の親友キズキの幼なじみ。キズキを介してワタナベは直子に出会い、三人でよく遊んだもの。ところが、十七歳になったキズキが突然自宅ガレージで自動車排気ガスを車内に引き込み自殺。
高校を卒業すると、ワタナベは、故郷の神戸から逃げるように上京、東京の私立大学に進学、学生寮に暮らし、やはり逃げるように上京してきた直子と再会します。
(ヘミングウェイの家系もそうだったといわれておりますが──)直子のところも自殺家系らしく、姉と叔父を失っています。二人は、キズキがいないとコミュニケーションが上手くとれません。なのに意思疎通がとれぬまま、関係を深めてしまいました。
契ってすぐ直子は、大学を休学しワタナベの前から姿を消し、やがて、京都郊外にある精神治療施設「阿美寮」に入院していることを手紙で伝えてきたので、ワタナベは訪ねていきます。そこには、レイコという元ピアニストがいて、直子の世話をしてくれており、ギターが得意で、直子が大好きな「ノルウェイの森」を弾き語りしてやったものでした(──筋から、小説タイトルはここからつけたような)。
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パラレルワールドというのか、主人公の反面教師役トリックスターには、学生寮の先輩で、外務省官僚となる永沢さんの存在があります。大病院の御曹司で天才肌。しかも超イケメンでワタナベも出会ったばかりの頃はしびれていた様子。
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ワタナベが、 『グレート・ギャツビー』を読んでいることから、永沢さんと親しくなります。永沢さんいわく、(俺とキズキは似たもの同士)といい、街にワタナベを誘っては名前も知らない若い娘と一夜限りの〝遊び〟に誘うようになるのですが、実は(自分にはもたったいない)といわしめる恋人がいました。ご令嬢が通う名門女子大生ハツミさん。
永沢さんは一途なハツミさんとは結婚する気がまったくない。ワタナベは、同情しハツミさんに永沢さんと別れるように忠告し、次第に永沢さんとは距離をもち、退寮、貸家へ転居──。
ハツミさんは、永沢さんに、実質的に捨てられたあと、別な男性と結婚し自殺をします(──直子の人生に重なります)。
迷走する青年ワタナベが、非情なエリート永沢さんや、デリケートすぎる親友キズキのような人にならなず救われた最大の理由は、心優しい二人の女性が現れたからでした。一人は先述したピアニストのレイコ、もう一人は大学の同期生である緑の存在でしょう。
主人公ワタナベは、直子との愛を深めながらも、交際する男性をもつ緑とも関係を深めていき、そのことに罪悪感をもってレイコに手紙でうち明けます。そんな最中(──失礼ながらいいタイミングで)直子が自殺。ワタナベは迷走します。
下宿に戻ってきたワタナベを、精神療養施設からでてきたレイコが見舞い、(友情の範囲内)で性交渉をとります(──あらゆる意味でレイコはワタナベの師匠ですねえ) 。
ワタナベを見舞ったレイコは、旭川に住む昔の友人に誘われて音楽活動を再開するか迷っており、ワタナベに再会したことで彼女なりにふんぎりがついた様子。空港までレイコを見送ったワタナベは、心の中で存在が大きくなっていた緑に、電話をかけ、(一緒に生きたい)と告げた──ところで物語が終わります。
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この先生は『1973年のピンボール』でも述べていらっしゃいますが、キーワード「井戸」がここでもでてくる上に、直子という自殺した主人公の恋人が登場します。設定面での微細な違いがあるため『ノルウェーの森』とは同一時間軸ではなく、パラレルワールドのよう。また、「カンガルー日和」(『カンガルー日和』 講談社文庫 1986年)では、動物園にいった主人公と妻との会話で、カンガルーの母子をみながら、「ドラエモンのポケットって胎内回帰願望なのかな」といっています。
私見ですけれど、子宮をイメージした存在「井戸」。胎内回帰願望の象徴(ドラエモンのポケット=「井戸」=子宮)。――主人公は、(混沌ケイオスに満ちた精神的な実母)直子と関係をもつことによって「シビアな「現実」に生み出され、餓死しかけたところを(精神的な義母たる)レイコに「授乳」されて育ち、緑という(現実の)伴侶となるであろう女性とともに歩み出す……ということをいわんとしているのかなあという印象を受けました。
しかしまあ、あそこまで性描写をしなくともいいのに──放屁を、上に向けただの、下に向けただの、延々と何ページも読まされたようで……19歳独身(設定)の私には疲れたよお~っ。
映画は、 ベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督で、松山ケンイチ主演。原作より大人しかったです。たしかに、カタルシスな結末はフランス映画っぽくもあります。女性むけポルノと断言したら、ハルキストの皆様──怒ります? 怒ります? そっ、そうですよねえ(自爆装置ON)
どっかーん!
了
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ノート20100513/校正20161017
【引用参考文献】
村上春樹『ノルウェイの森』講談社文庫1991年 上・下巻
村上春樹『1973年のピンボール』講談社文庫2004年
村上春樹「カンガルー日和」『カンガルー日和』講談社文庫1986年




