読書/乃南アサ 『花盗人』 ノート20161127
乃南アサ 『花盗人』 感想文
乃南アサ『花盗人』1998年
朗読・おちあいさとこ 横浜録音図書株式会社
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【概要】CDカバーのあとがきより
「あなたが私にくれたものは、あの桜の声ただけ、あなたが盗っていったものは私のすべて……」自立できない夫との生活に憑かれた女は逃げ場を求めた。それが彼女の脱線の始まりだった。
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【プロット】
A その夜、午後十時を過ぎてから帰宅した祐司は
~安部屋に暮らす夫婦。つくす姉さん女房・公子。転職を繰り返す弱い夫・祐司は家事もままならず、蒲団すら自分でひけず、すべてを公子に依存していた。甘ったれの32歳。妻は7歳年長。
B 翌日、仕事帰りにいつも通り地下の食料品売り場を
~公子はデパートの社員だ。同僚と喫茶店で話をするうちに盛り上がる。友人は祐司と公子のなれそめを知っていた。祐司は学生バイトできた。もうアタックして公子を口説き、周囲の反対を押し切って結婚した経緯がある。――プロポーズで花枝を折ってプレゼントしてくれた公子の昔の言葉をもちだして茶化す。友人は近く女子会をやろうという話になった。惣菜ではなく料理をつくってくれとせがむので疲れているのを我慢してつくってやっても亭主は労いの言葉すらない。
C いつの間にか、道端の植え込みから秋の虫の音が
~女子会当日、祐司は臨時休だった。三食のうち二食準備。夜食はつくろうと帰ろうと考えた。女子会に集まった連中は、公子のなれそめを知っている。例の花枝の件も知っている。そのうち、亭主を甘やかしすぎだという話になった。彼女たちは亭主を上手くしつけて幸福そうだ。宴会の二次回はパチンコ屋にゆき熱中。ビギナーズラックで憂さ晴らしできた。
D 腹が減って死にそうだよっ! 帰宅するなり
~ヒロインが部屋に戻るなりDVを受ける。亭主は晩飯を食べにゆくという発想がない。部屋は荒れ放題。泣くと機嫌をとりはじめる。友人は駄目夫の話をきいてもう限界だろう、という意味の話をするのだが、公子は自分の家庭は自分の家庭ですといって話を切る。
E その夜、公子は夢をみた。
~公子の夢の内容は偽らざる本人の気持ち。祐司はあの花を盗んで自分にくれたけれども、代償に奪っていたのは自分の人生そのものではないのかと。公子は五万円を準備して仕事帰りに九時半までと決めてパチンコに熱中。全部すった。これも夕食も自分でつくれない亭主が悪い。そんなことを思って駅前を通る。放置自転車群から一台を失敬して、踏切から線路にゆき、レールに放置した。――そこを保線員にみつかって逮捕されてしまう。
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【所見】
「花盗人」由来。
平安中期、藤原道長が「浮かれ女」と呼ぶほどに、風流ではあるが恋多き女・和泉式部が、敦道親王と同棲していたころ、親王のサロンに出入りしていた藤原公仁という公卿がおり、「我れが名は花盗人と立たば立て 唯だ一枝は折りて帰らん」と詠んだ。――花一枝を折って盗ってしまうのは、美しさに惹かれた出来心で、風流だから咎めてはならないという首で『和泉式部集』に収められている。その和歌から話をふくらませたものだろうか。
鎌倉時代、伊賀守橘成季によって編纂された、世俗説話集『古今著聞集』によると、藤原定家が五十歳になろうとしていた正月。宮中の渡り廊下の横にあった八重桜の木に従者をのぼらせ、枝を一本失敬した。定家は枝を袖に隠して立ち去ったところ、官人の一人に見られ噂になった。それが帝の耳にも入った。帝は、申し分を、女官の伯耆に和歌にさせ、定家の屋敷に届けさせた。「なき名ぞとのちにとがむな 八重桜うつさむ宿はかくれしもなし」――無実だとあとになって咎めなさいますな、八重桜を移した家は(いずれ花が咲いたら)隠しようもない。すると定家は、使者に、「くるとあくと君に仕ふる九重の やへさく花の陰をしぞ思ふ」――明けても暮れても帝にお仕えしております宮中の八重桜のその幾重にもかさなる花陰のことを思っております(わが君のおかげをこうむるわが身だと思っております)と日頃の感謝の気持ちを和歌にして返した。
狂言「花盗人」では、とある花見の宴で、花枝を折った僧が桜木に縛りつけられ、花見の衆に、面白い和歌を詠ったら赦してやると言われ、「この花のもとにて縄つきぬ烏帽子桜と人やみるらん」と読んで、一同が感動し、花見の宴に加えた。
伊集院靜の小説『にせアカシア』に登場するヒロインは、上記の系譜を踏んでいる。――だが、乃南アサの『花盗人』にでてくるヒロインの亭主というのは、昨今の桜木をトラックをつかって根こそぎ切倒し奪ってゆく、風流のかけらもない花壇荒らし、社会のクズとして描かれている。
ヒロイン公子は自爆したわけだが、ここで逮捕されてよかった。列車はまだ事故になっていない。パチンコ依存症もまだなりたて。カウンセラーと話し合って、駄目亭主とも離婚できるような気がする。
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