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もう一度妻をおとすレシピ 第6冊  作者: 奄美剣星
読書
43/100

読書/『サキ傑作集』河田智雄訳 ノート20151223

 シェークスピアの登場以降、近世・近代の英国は文筆家を多く排出する。下記に記した『サキ傑作集』所収作品は1作が10頁で解説を含めた全体で206頁だ。

 近代戦争によって、それまでの価値観が崩壊し、不遇の天才作家ポオが「アッシャー家崩壊」を描いた。さらに、この人は、探偵小説を発明するわけだが、同時にポオは「黒猫」のようなホラー小説もてがけていた。少し後に、ラヴクラフトが『クトゥルー』シリーズをだす。

 本題・サキの作品にも「狼少年」のような、ラヴクラフトめいた、異界の住人がひょっこり田舎屋敷にあがりこむといった、鬼気迫る怪奇ものがある。「蜘蛛の巣」にはシェークスピア『マクベス』にでてくる魔女みたいなのも登場。――基本、ハッピーエンドはなく、読後に苦笑いしてしまう。……中学以降の英語教科書・副読本に、教会の説教じみたオー・ヘンリーの短編「枯葉」とか「クリスマス・キャロル」とか「賢者」とかいった、ほのぼの系短編があっても、同時代の短編作家双璧といわれるサキの作品を、私はこれまでみたことがなかった。

 作品集のなかで、私のお気に入りといえば、怪奇ではないが、ブラックユーモアであるところの、「話上手」と「物置部屋」だ。

 「話上手」は、伯母とやんちゃざかりの姪二人が登場。道徳的な伯母の話にうんざりして騒いでいた。当時の列車には個室である一等室というのがあり、たまたま、そこに居合わせた青年が、行儀の悪い少女たちを静かにさせるために、(よいことをするたびに大人たちから、金属製の勲章をもらった少女が、最後に、複数の勲章がチャラチャラ鳴ったがために狼に食べられてしまう)というインモラルな物語をして夢中にさせ黙らせたというエピソード。

 「物置小屋」では、伯母を称する近所の大人が、家人に引率させ、〝いい子〟たちを夏の海辺に連れてゆくのだが、悪戯が過ぎた悪童が置いてきぼりを喰らった。ところが、〝伯母〟が花園の水溜めに落っこちてしまった。悪童は、〝伯母〟の日頃とは矛盾した言葉をきいて、(魔女だな!)と焦らしてなかなか助けない。そのうちに、悪童の妹や従妹たちが浜辺から帰ってきたが満ち潮で泳げなかった。妹ときたら靴擦れで泣きベソをかいている。誰一人喜ばない。会家人に梯子をもってこさせて助けた悪童がいう。――〝伯母〟さんの善悪観点は、独善的で、僕たちの話をきいた試しがない。

 本名ヘクター・ヒュー・マンローの筆名サキの由来は、南アフリカに棲息する猿なのだそうだ。作風は背徳的でバイオレンス、ホラーを加えた世界観を有しながら、優雅さえ感じる。――この人が、貴族的冷笑を浮かべる作家とされる由縁だ。

 作家は、第一次世界大戦に、志願兵・下士官となって、同盟国フランスの前線に赴き、ドイツ軍との激しい戦闘で落命する。――私には、はじめ、模範的な市民〝良い子〟として熱い死に方・名誉の戦死をしたのは意外に思えた。だがよく考えてみると、貴族(騎士)的なロマンチシズムによるクールな討死ととらえられなくもない。


  ● 河田智雄訳 『サキ傑作集』(岩波書店 1981年)――岩波文庫より。

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