読書/『ヘミングウェイ短編集』 西崎憲翻訳 ノート20170316
『ヘミングウェイ短編集』 西崎憲翻訳 筑摩書房2010年
ヘミングウェイは、第一次世界大戦に看護士として従軍した体験から、作品を発表。従来の小説に比して簡明なタッチが特徴である。また太宰治に影響を与えた、ノーベル文学賞作家だ。
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目次
●「清潔で明るい場所」
……ウェイターとバーテンダーの掛け合い。著者の持病の悩みを述べたものだろうか。
●「白い象のような山並み」
……スペインとフランスとの国境付近。エプロ川の対岸にみえる白い山を仰ぎ見ることができる駅がある。男女がそこの 大衆食堂でビールを引っ掛ける。小粋な会話。
●「殺し屋 」
……田舎町の食堂で働く兄弟が、裏社会の仁義を裏切ったため隠れ家に身を潜める男の噂をする。当時のアメリカ社会の風刺であろう。
●「贈り物のカナリア」
……フランスを列車で旅するアメリカ人たち。語り手の夫妻がいるコンパートメントには、カナリアの籠を持ちこんだ母娘がいた。母親にいわせると娘の結婚相手はアメリカ人男性に限るといっていた。皮肉にも、語り手は夫人と別居しようとしていたわけだが。
●「あるおかまの母親」
……スペインにて。ああいえばこういう最低男。屁理屈を並べて借金を返さない。
●「敗れざる者」
……闘牛士が、牛と戦って重症を負い、昏睡状態に落ちるまでの描写。
●「密告」
……スペイン内戦直後。フランコ将軍が勝利した。首都マドリッドをアメリカ人述者が訪れた。レストランの従業員たちの会話は殺伐としたものだった。スパイを密告した。報償を貰った。そんな会話が日常化し、混沌としていた状況だった。
●「この身を横たえて」
……第一次世界大戦の際、米国人仕官がイタリアへむかう。列車で戦線へむかうときに美しい故郷の夢をみる。イタリア系移民の男が帰国した際、開戦となり徴兵され部下になる。部下は不眠症気味だ。その部下が除隊になって喜ぶ。
●「この世の光」
……場末の居酒屋では、麻薬が売買され、娼婦たちが客引きにやってくる。旅の述者は、店員や常連客たちと、しばし会話を楽しみ、また旅にでた。
●「神よ、男たちを愉快に憩わせたまえスイスへの敬意」
……裏路地の町医者のところに、虚勢を希望する少年が訪れた。胡散臭い感じの町医者がクリスマスを理由に断った。――悪いが今日はそんな気分になれないんだ。
●「スイスへの敬意」
……アメリカ人作家が、スイスを訪れ、駅のカフェで食事をする。ウェイトレスを口説き、同席した紳士に身の上話をする。科学者だった父親は鬱だったらしく銃で自殺した。――ヘミングウェイ家系には精神病からくる自殺系であることが知られている。
●「雨のなかの猫」
……猫を欲しがる婦人。気のないそぶりで話を聞く夫。夫が居間を離れる。外は雨。すると、メイドが旦那様に頼まれましたといって猫を抱いて戻ってきた。
●「キリマンジャロの雪」
……映画にもなった有名な話。狩でアフリカを訪れたアメリカ人の男。献身的な介護を受けつつも、ようやく救助に駆けつけた飛行機に乗せられたところで絶命する。――地元部族の伝説にキリマンジャロ山頂には豹の死体があるという。男は死ぬまでロマンを追い求めるのだ。
●「橋のたもとの老人」
……スペイン内戦の最中。避難民たちが殺到する橋の前で、アメリカからやってきた義勇兵士官が避難民の一人である老人と話をする。老人が気にしているのは政府軍でも反政府軍でもなく、自宅で飼っているペットたちの安否だけだった。
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