読書/早見俊 『うつけ世に立つ』 ノート20170317
早見俊 『うつけ世に立つ』 感想文
大学の史学科在籍中に、日本史、東洋史、西洋史、考古学、人類学に少し触れたことがある。大学というところは高校の延長であったのと、私自身が不真面目な学生だったので、ごく上っ面を舐めただけで終わった。日本史で最初にきいたのが、織豊政権最大の成果を扱った太閤検地論なるものだ。――中世から近世に変わる一大革命だった。織田家が勇躍する端緒となったのは美濃制圧にあった。
物語は、織田信長による美濃攻略戦―第一信長包囲網戦にスポットを当てている。織田信長、前国主斉藤道山の娘で離縁されることになる帰蝶、稲葉山城戦で国主の座を追われた、道山の孫・斉藤龍興。鵜匠の少年がメインキャストになる。鵜飼の少年のは、両親を攻略戦で亡くした。信長は仇は「鵜匠天下一」となって見返すことだといい放つ。その信長は、自分を頼ってやってきた流浪の将軍・足利義明を、そして離縁した妻・帰蝶の死期が近いことを死ってまた、鵜飼による鮎焼きでもてなした。――テーマは東京五輪と同じ〈おもてなし〉というところか。
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目次
岐阜入城 5 ……第一部
鵜飼の盟約54
上洛 97
本圀国の変 137 ……第二部
天下人への道 179
もてなしの城 211
驕りの静謐 246 …… 第三部
明日への敗走 285
姉川の戦い 323
第六天魔王365 ……第四部
信玄鳴動405
醒睡の世439
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早見俊『うつけ世に立つ』徳間書店二〇一六年
ノート20170316
早見俊
『うつけ世に立つ――岐阜信長譜』
徳間書店2016年
【概要】
織田家祐筆・太田牛一が著した『信長記』を元ネタに、英雄・信長伝説は構築され、いまだにこの人の人気は衰えを知らない。あまりにも大河ドラマの重要人物になってしまったがために、歴史オタク・歴女ならずとも、誰もがこの人の生涯を知ってしまっている。いまさら、ふつうに書いたって本を手にすることはなかろう。信長の華麗なるデビュー戦・桶狭間はすっとばして、物語はいきなり、岐阜城奪取から始まる。それでいて、紅蓮の炎の中で消える本能寺では終わるお約束ストリーではない。第一次信長包囲網のイベントに焦点をあて、これを各固撃破してゆき、勝利した時点での岐阜城がラストシーンになる。信長を映し出す映画撮影班のカメラ役は、信長の正室・帰蝶、落語創始者・安楽庵策伝、鵜飼の少年・弥吉といった人たちだ。それに殺陣として、信長によって美濃国主の座を追われた、斉藤道三の孫・龍興とその忠臣長井道利が活躍して物語を盛り上げる。信長暗殺作戦の黒幕に、離縁した正室・帰蝶がいるという点が面白い。ひと言でいうなら、主な舞台を岐阜に絞った、天下分け目の夫婦喧嘩と仲直りだ。
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【プロット】
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01岐阜入城05
全6節。織田信長が秀吉をして氏家卜全を皮切りに美濃三人衆を籠絡し稲葉山城を陥落させる。翌年、信長は離縁した正妻・帰蝶と岐阜と名を改めた井ノ口城下で再会した。
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02鵜飼の盟約54
全6節。新しい本拠地・美濃の岐阜城と城下は活況を呈する。合戦の最中、鵜飼の少年が信長を討とうするがとり抑え、天下一の鵜飼になって自分を見返してみろといわれる。
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03上洛97
全5節。将軍足利義輝が三好三人衆に殺害された。弟の義昭(義秋)が、岐阜の信長を頼ってきた。信長は即座に上洛する。信長は気の毒な貴紳を鮎焼きでもてなした。安楽庵策伝の評価。
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04本圀寺の変137
全4節。信長が尊敬する岐阜・斉藤道山の墓地を訪ね冥福を祈る。そこで帰蝶とまた再会。そのころ、足利義昭を将軍に据えた信長。警備の者を残し、兵を引くと、途端に三好三人衆が襲い掛かってくる。そこに一介の傭兵隊長として参加していた、斉藤龍興・長井道利主従の姿があった。しかし信長が大軍で巻き返して来て追い散らす。他方、美濃では、帰蝶の隠棲している草庵に一千貫の大金が信長から道山香典の名目で送り届けられる。帰蝶はなんとそれを、元夫へ報復するため、直接父親に手を下した兄の子である龍興に軍資金として与えることにした。
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05天下人への道179
全5節。本圀寺の変で敗走した斉藤龍興と長井道利主従。閻魔堂に籠ったところを旧家臣・氏家卜全の手勢に囲まれるが、見逃がしてもらう。直後、信長は、三好三人衆と縁深い堺に秀吉を遣わして矢銭(軍資金)を調達させ、織田家への忠誠を誓わせる。策伝評。
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06もてなしの城211
全5節。岐阜にいる信長の元に今度は、ルイス・フロイスらキリスト教宣教師の一行が不況許可を求めてやってきた。仏教代表と宗論をさせて論破したが、朝廷によって行動を制限されている信長は天下人として庇護した。その際、鮎焼きでもてなした。
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07驕りの静謐246
全5節。信長にないがしろにされた将軍・義昭は、密使を織田の周辺に送って、第一次信長包囲網を形成しつつあった。朝倉・武田・本願寺が呼応する。信長の義弟・長政のいる浅井家は朝倉家に恩義がある。長政の心は揺れる。漂浪の将・斉藤龍興は、信長の配下にいる旧家臣・氏家卜全が自分に寝返るよう策謀を図る。
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08明日への敗走285
全5節。織田軍の朝倉攻め。浅井家の突如の裏切りで、挟撃された。敗走する織田軍。秀吉と家康がシンガリで追撃をしのぐ。その間に、明智光秀が近江の独立勢力・朽木氏を口説き、そこに信長が少数の親衛隊とともに逃げ込み保護された。斉藤龍興はあとひといきのところで宿敵・信長を取り逃がす。――黒幕の帰蝶は、報告をきいてなぜだか、安堵する。
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09姉川の戦い323
全5節。織田信長の巻き返し。大軍を率いて浅井・朝倉連合軍と野戦を行う。織田の横列隊形に対して、浅井・朝倉勢は縦列隊形で突っ込んできた。しかし稲葉一鉄、徳川家康の奮闘で押し返す。斉藤龍興はあとひといきのところで、またも信長を取り逃がす。
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10第六天魔王365
全5節。織田家、本願寺と抗争。消耗戦だ。本願寺側は、紀州雑賀衆・根来衆といった鉄砲傭兵隊がかけつける。他方で、伊勢の門徒宗が呼応蜂起。伊勢長嶋の戦いが勃発する。激戦の中で、氏家卜全と斉藤龍興が対峙する。龍興は、かつて命を助けてくれた旧臣に投降を呼びかけた。卜全は拒否し銃火に倒れた。他方、帰蝶は労咳に蝕まれ、余命いくばくもなく衰弱していった。
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11信玄鳴動405
全5節。武田信玄が、信長の盟友・徳川家康の三河に侵攻。しかし城に籠っていればそれ以上侵攻することはかなわない。他方で、信長は、近江の浅井家の本拠地内につけ城をつくって身動きができないようにした。盟友朝倉がでてきたところを、叩き潰すという作戦だ。しかし朝倉家が織田家の軍容をみて怖気づき、撤退してしまった。これをみた浅井家有力家臣が続々と織田家に投降してゆく。他方、反信長包囲網側である、比叡山を焼き打ち。――比叡山は傲慢だったため世間の批判は小さい。しかし非戦闘員を虐殺したあたり、信長の楽土の政策に、策伝は疑問をもつ。
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12醒睡の世439-505
全5節。武田信玄が陣中で急病死。同軍勢は甲斐に撤退してしまった。これにより信長包囲網は実質的に瓦解した。摂津の本願寺は石山御坊を退去した。機を一にして、信長は、陰で信長包囲網を画策した足利義昭を逮捕・追放した。信長は朝倉氏の掃討戦を行う。戦いには斉藤龍興・長井道利主従が加わり、氏家卜全の子・直昌の隊伍と刃を交え、ついに果てる。――ここに信長包囲網戦はついに終了した。
第三の夫人である側室・お鍋の方は、聡明な女性で、信長の心中と帰蝶の境遇とを思いやって、故郷である稲葉山城にその人を迎える。信長は正室の座を帰蝶以外の誰にもやらなかった。ほどなく果てるであろう。鵜飼がとった鮎を、帰蝶が口にして終わる。――長きにわたる夫婦の確執はついに氷解した。
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【所見】
信長の心からのおもてなしは何度も登場する鵜飼がとった鮎焼きで象徴される。足利義昭、ルイス・フロイス、帰蝶を感動させる。裏テーマは「おもてなし」
ノート20161022




