第28話:家族
久しぶりに聖が出てきます。
「はぁ、はぁ……」
かなり走り、疲れきった体を休め息をととのえる。
「さっきの【あれ】はなんじゃ?」
ガイルは息切れをせず俺に聞いてきた。【あれ】とは壁の向こう側の【人体実験場】だった。
そこでは魔導を習得した人を拘束しそのまま不思議な機械に生きたまま入れ出口から出てくるのは一つ一つ違う形状の武器。
「まず、【奴等】に捕まれば死ぬな……」
「そうだね。とりあえずは休む家が欲しいな」
「わかった。俺の家に行こう」
そう言い俺は二人を案内した。
「ここだ」
家を指さすと二人は
「まぁまぁかな」
ふざけんな吸血鬼。自分の家(城)と比較すんな。
「小さいのだな」
この野郎……。悪かったな小さくて。
軽く家をけなされたが軽く流し家の中に入る。そこで俺は不思議な光景を目の当たりにする。
「あら?あなたは誰?」
話しかけてきたのは家にいた人。
「……え?」
俺は言葉が出ず家を出た。
「なんで出たの?ここがレンホウの家なんでしょ?」
「そのはずなんだけ…ど」
家の入り口に付いている名字が書いてある掛け札を見たら【高橋】と書かれていた。
目を擦り見直しても【高橋】。不安になり聖の家に行くことにした。
(聖、いてくれればいいけど)
そう願い俺たちは聖の家の前にいる。ちなみにさっき実験したことだが、こちらの世界でも魔導は使えた。ただし使うと通行人にかなり見られるが……。
それは別にどうでもよく俺はインターホンを押す。
ピンポーン♪
久しぶりに聞いた音がとても心地よく思えた。そしてガチャリという音が聞こえ中から現れたのは腰までかかる黒髪。そして見た者を吸い込みそうな漆黒の瞳。その姿は紛れもなく里崎 聖そのものだった。
「誰ですか?」
聖は呆気にとられたような顔をして俺に問いかけてきた。
「ずいぶんな言い草だな……」
「どなたかわかりませんが取り合えず中へ」
そう言われ俺たちは中へ入った。
玄関に入り少し歩き右にあるリビングに入った。次の瞬間
「蓮崩!!!」
聖が勢い良く飛びついてきた。なんとか受け止めたがバランスが後ろに崩れ倒れた。
「痛って……」
「あ、ごめん……」
すぐに聖はどけ隣に座った。
「レンホウ……。その者は恋人か?」
いきなりガイルが質問をしてきた。普通10才では聞かないような質問を。
「違う!!これは幼なじみだ」
「レンホウ……。本当?」
プエルが殺気を殺し話しかけてくる。はっきり言ってかなり怖い。
「本当…です。はい」
恐怖を隠しなんとか答える。聖は不思議に思ったのか俺に聞いてきた。
「ねぇ、あなた達は誰?」
「あたしはプエル。プエル・ド・シェルよ。吸血鬼だけどね」
紅い眼が真っ直ぐに聖を見る。
「吸血鬼?トランシルバニアにいると云われている?」
「とらんしるばにあ?なにそれ?」
聖は困惑の表情で俺を見ている。
「どういうこと?」
「それは後で説明する。こっちのちっちゃいのは…」
「ガイル・ジェラルドじゃ」
いつの間にかガイルは人間の姿に戻っていた。
「この子は?」
「それもまとめて説明する。そういえば俺の家が別の家になってたぞ?」
聖に聞くと別段驚いた様子も見せずに口を開いた。
「そう。あんたがいなくなってから急にみんながあんたのことを忘れたの。会ったことが無いみたいに」
「どういうことだ?」
「さあ?取り合えずあなた達は私の家族になったほうが良いと思うの」
「なんでだ?」
突然の提案に3人は混乱した。
「誰も覚えていないんだから。それに家もないんでしょ?蓮崩は家族もいないんだから久しぶりに【家族】になって日常を楽しんだら?」
「そ…うだな」
「じゃあ、プエルさんとガイル君の名前を変えよう?里崎に合うようにね」
急に明るくなった聖は名前を考えていた。このときは知らなかった。聖の両親が事故に逢い亡くなっていた事に。