第26話:運命
『一難去ってまた一難』
その言葉は聞いたことがあるでしょう。運命とは実に珍しいものです。
俺はプエルの母親のことを静かに聞いていた。ガイルはとても綺麗だったと言っていた。だが、俺は実際見たことがないので聞いてもわからなかった。
『百聞は一見にしかず』とはこの事を言うのだろう。
プエルの話が終わり俺たちは外に出て体内の空気を入れ替えた。
「ま、母親に会えたんだから良かったよな?」
「そうじゃな」
「そういや、なんでお前はそんな格好なんだ?不思議で仕方がねぇんだが……」
二人が帰ってきたときから不思議でしかたなかった。頭には犬のような耳、瞳は狼のような目、そして尻には尻尾。
「魔界に戻ると強制的に元の姿に戻るらしいのじゃ。しかし戻ったはいいが今度は人間の姿に戻れなくなってしまっての……」
「いや……。答えになってねぇ!お前は【獣人族】なんだろ?獣人族ってなんなんだ?」
「獣人族は種類が多すぎて一概にこれとは言えないんじゃよ」
ガイルの説明がやけに懐かしい感じがする。
そんな意味もないことを話をしていたらプエルが口を開いた。
「ねぇ、この町にはもう私たちしかいないんだよね?」
おもむろにプエルが話してきたことは不思議でしかたなかった。
「そのはずだけど……。なんでだ?」
「だって前にいるじゃない?人が」
俺とガイルは前を向いた。さっきまではプエルの方を向いていたために前を見ていなかった。
「あれは誰じゃ?」
前には紳士風の老人がいる。右手には杖を持っている。
「初めまして。ガイル様、プエル様。そして蓮崩様」
紳士風の老人は俺たちの名前を呼び微笑んだ。なぜかその笑みには違和感を感じる。
俺たちはすぐに戦闘体勢に入った。
「拳を下ろしてください。貴方がたと戦うつもりはございません」
「じゃあ、あんたの体から出てる殺気はなんだ?」
俺は問いかけた。事実、何の訓練もしていない人間は卒倒するくらいの殺気だ。
「あぁ。それは……」
男が何かを言おうとした瞬間、体が動かなくなった。それは他の二人も同じだった。
「無傷で連れてこいとの命令ですので」
奴の殺気が急激に上がった。呼吸ができそうにない。いや、呼吸をすることですら隙を見せるようだった。体の硬直を気力で解き俺たちは後ろへと逃げた。
「逃がしませんよ。特に蓮崩様は」
何故? そんな考えが頭をよぎった。
「なんなのあいつ!?」
「わしが知るかレンホウ!お主は?」
「知らねぇよ。第一知ってたらお前等に言うだろ!」
かなりのスピードで逃げながら会話しているが実際は余裕がなかった。すぐ後を奴が追ってきた。
「仕方ありませんね……。実力行使でいきますよ!」
そう言った瞬間、奴は一歩で目の前に来た。
「なっ!!!」
「すみませんが任務なのでね。はぁ!!!!」
奴は杖を俺の頭に突きつけ衝撃を放ってきた。もちろん俺は避けきれず直撃した。
「レンホウ!!」
プエルの声が聞こえる。俺は頭を軸に中空を縦に1回転した。なんとか着地したが脳を揺らされたためひどい吐き気におわれた。
「オェェーー!!!ゲホッ!!ゴホッ!」
かなり胃液を吐き俺は意識が無くなった。