第17話:決着
「能力変換〈衝撃〉トリス。《帯びろ》!」
長刀に魔導をかけ強化を施し元吸血鬼デュノンに近づく。
チキ・・・チキ・・・
蜘蛛は払うように一本の足を振るう。
俺は刀を振り降ろし刀の先から圧縮した衝撃を放つ。
「ほう・・・。そんなことが出来るようになっていたとは驚きじゃな」
ガイルはそう言っているが別段驚いてはいない。ちょっとムカつく・・・。
「衝撃の刀だ。刃は当たらずとも衝撃が当たるぞ!蜘蛛野郎」
衝撃で蜘蛛の足を止めガイルが足を切り落とす。
という作戦だったが蜘蛛は粘着性の糸を吐き出し俺の腕を絡める。
「レンホウ!おのれ・・・。死閃煉獄衝!」
ガイルは大剣振り降ろし糸を切り刻む。この技はおそらく超高速で剣を振り降ろしてカマイタチを発生させる技だ。一回しか振り降ろしてないように見えるのはガイルの剣の振る速さが速すぎるためだろう。それにしても大剣をそんなに速く振れるのは凄い・・・。もうバカと言いたい。
まぁ、それはおいといて。
糸が切れ自由になり俺はもう一度衝撃を飛ばす。
衝撃は蜘蛛の眼に当たり一つの眼を潰すことが出来た。目の前の光景はまさにスプラッターショー。
吐き気を催したがなんとかこらえ蜘蛛に向かって走り出す。
「まったく。眼を潰されても生きているとはな・・・」
ガイルが呟く中俺は思った。
眼を潰されても生き物は死なない。そんな簡単に死ぬなら竜討伐も苦労はしないだろ・・・。と
キシャアァァァァァァ!!!!!
耳をつんざくような叫び声を聞き、耳を塞ぐ。しかしこの行動が仇になった。ガイルが何かを言っていたが耳を塞いでいたために聞こえず死角の背中から来る攻撃に反応が一瞬遅れた。
横に跳びなんとかかわすが足の先端がわき腹に当たり肉をえぐる!
「レンホウ!」
ガイルが叫ぶが今の俺は激痛のあまり声すら出せない。
蜘蛛は頭を喰おうとこっちに来る。こんなのには喰われたくないなぁ・・・。
そんなことをのんきに考えているともう蜘蛛は眼の前にきていた。三つある眼のうち一つは潰れ紫の体液を流している。
俺は刀を離し蜘蛛の腹の下に潜り込み言霊を発し衝撃を放つ。刀に帯びさせていたのも衝撃だが能力を変えてなければ効果はそのままだ。
蜘蛛は一瞬体が浮いた。ガイルはその隙をつき蜘蛛の背中に乗る。
「これで終わりじゃ。レンホウ早く腹下から出てこい。潰れるぞ」
「わかってるよ・・・。トリス!!」
誰もいないところに衝撃を放ちその反動でなんとか蜘蛛の下から出られた。
「よし。くらえ!【地影天墜】(ちえいてんつい)!」
ガイルは天井近くまで跳び上がりーーこの部屋の地面と天井の高さは目測約8m蜘蛛の体長は4mほどーー体を回転させながら落ちてくる。目は回らないのか?
そして蜘蛛の背中に大剣をたたき込む。そして蜘蛛は・・・
見事に粉々に飛び散った!紫の体液を周りに飛ばして。そして俺は思った。
・・・泣いて良いですか?
わき腹の痛みに耐えながらも恐怖する。飛び散った生き物ではなくガイルに。
「ふぅー・・・。レンホウ大丈夫じゃったか?」
心配そうにガイルが話しかけてくる。
「ダイジョブなわけねぇ!わき腹えぐれてんだぞ!?っつつ・・・」
無駄に叫んだため体に激痛が走る。
「能力変換〈癒し〉トリス」
言霊を発し体を癒しながらだが説明しよう。魔導は集中力さえあれば上級魔導も使えるらしい。プエルがいう話ではだが。
とりあえずの応急処置だけはすませたがさすがに痛みはある。
なんとか立ち上がり体を動かす。よくよく体を見ると全身が紫だ。これは怖い!ゾンビと言っても誰も疑わないほど怖い。
「ハハハハハッ♪凄いことになっておるぞ」
あぁ、殺してぇ・・・。貴様が原因なんだぞこの野郎。
瞬時に思った。
「ったく。能力変換〈水〉トリス!」
手を天井にかざし言霊を発し水球を天井に放った。
それは天井にぶつかり破裂して雨に変わった。俺は雨で蜘蛛の血を洗い流した。
「能力変換〈風〉トリス」
そして風を周りにおこし濡れた服・髪を乾かした。魔導は日常生活でも使えるから覚えておいて損はないらしい。魔導式を書いたときの痛みを我慢できれば・・・。
「なんじゃ戻ったのか。面白かったのに」
このごろガイルの性格が悪くなってきた気がします。元々の性格なんでしょうか?
そんなことを考えながらガイルを見るととても悲しい顔をしていた。
「どうしたガイル?」
「わしらはプエルの父親を・・・」
「あっ・・・」
「どうすればいいんじゃ?」
無言の時間が流れる。
そんな時入り口の通路の奥から足音が聞こえる。
ヒタヒタ・・・
裸足なのだろうか?足音は極めて低い。
「誰じゃ?」
「わからない」
歩いてくるものを待っている。そして見たものは中庭で見た全身緑色の化け物。それも一回り大きいものが歩いてきた。
俺たちはすぐさま戦闘体制に入った。ガイルは足元に置いてある大剣を持ち、俺は少し前にある刀のところへ行きそれを拾う。そして俺たちは化け物を見た。だがそこにいたのは、通路いっぱいの緑の化け物だった。
「どこにいたんだ!?こんなに」
「大方、天井にでも擬態していたのじゃろ!行くぞ!死閃
「待てガイル。なにか言ってる」
俺たちは攻撃をやめ声を聞いた。
(ありがとう・・・)
(これで自由になれる・・・)
(心がもどる・・・)
(躯は朽ちたと伝えてくれ・・・)
「どういうことじゃ?」
「俺が知るかよ・・・」
化け物たちはそういうと幻の如く消えた。そして俺たちは城を出た。