押し入れの中で
また夜に戻ったような部屋の暗さだった。
隣で友人が、携帯電話を取り出すと何やら操作を始めた。
「あの¨液晶テレビ¨の電源のスイッチは入っているでしょ?」
「うん、リモコンで操作してるから。」
「今から、私の携帯電話をテレビのリモコンの代わりにするから。」
「…ああ、テレビをつけて部屋を明るくするんだね?」
「そう。しかも、ココのテレビは画面の向き…も…かえられるから…ちょっと待ってね。」
「うん。」
小さいテレビでも、暗くなった部屋の唯一の明かりとしては、有効だった。
テレビの音声は雨で聞こえなかった。
光の明滅が思ったより激しい。モールス信号のような隠れた情報があったとしたら面白いだろうな、と思った。
友人が、携帯電話を操作してテレビ画面の向きをかえた。
それは、僅かな角度ではあったが、部屋の様子を把握するには十分だった。
女性は見えなかった。
…まだ、トイレの中かな
友人が、テレビ画面の向きをかえてトイレの方を照らそうとするが、少し角度が足りなかった。
テレビの番組では、ホラー映画の特集をしていた。
幽霊役の女優が誰かに似ていたような気がしたが、思い出せなかった。
……?
一瞬、テレビの映像が乱れた後、
¨しばらくお待ちください¨
の字幕が出たまま、放送が止まってしまった。
……。
──雨の音が更に激しくなる。
その五月蝿い雨の音の中で、小さい台にのったテレビの画面がゆっくりと回り続け、やがて後ろ向きになった。
そして、前に倒れ床に落ちた。
……。
テレビ画面の柔らかな光が、天井をぼんやりと照らす。
……?
その光の向こうで、何かが動いたような気がした。
それが、ゆっくりとコチラ側に進むとテレビの光に、下から全身が照らされた。
……。
あの女性が、あの時の顔で下からの光を遮る。
そして、鼻や口から黒い何かをボトボトと落としながら、誰かを探しているような素振りを見せていた。
……。
女性は更に数歩進み、光を背にして黒い人影になった。
──雨の音が少し弱まった
すると、今まで聞こえなかったテレビの音が女性の声で、
《……だ》
《…こだ》
と、言っているのに気付いた。
……?
友人が携帯電話の¨リモコン¨を必死に操作していた。
──テレビの音量0
《どこだ》
《どこだ》
女性の声が続く。
友人は、携帯電話が壊れそうなほど同じボタンを何回も押していたが、女性の体に遮られて、テレビまで¨救い¨の電波は届かなかった。
──わあああああああっ
友人は、精神的に我慢できなくなり、押し入れの戸を開け部屋へ飛び出した。
そして、女性の隣を走り抜け、部屋のドアを開けたまま外へ逃げていってしまった。
女性は、友人の飛び出していった押し入れの中で青ざめている体重3桁を見つけると、体を震わせた。
──次の瞬間
女性は、体重3桁の目と鼻の先まで近づき、その巨体を押し倒し馬乗りになると、両手で持った¨トイレブラシ¨の柄を頭へ刺してきた。
…うう
何回も女性の攻撃を受けていた。
体重3桁の怪力でさえ女性の攻撃を止めさせる事は出来なかった。
──額から赤いものが流れ始めた。
トイレブラシの柄が折れても、女性は攻撃を続けた。
…う……?
女性の背後に人影が見えたような気がした。




