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女性  作者: VISIA
8/13

押し入れの中で

 また夜に戻ったような部屋の暗さだった。


 隣で友人が、携帯電話を取り出すと何やら操作を始めた。


「あの¨液晶テレビ¨の電源のスイッチは入っているでしょ?」

「うん、リモコンで操作してるから。」


「今から、私の携帯電話をテレビのリモコンの代わりにするから。」

「…ああ、テレビをつけて部屋を明るくするんだね?」


「そう。しかも、ココのテレビは画面の向き…も…かえられるから…ちょっと待ってね。」

「うん。」

 小さいテレビでも、暗くなった部屋の唯一の明かりとしては、有効だった。

 テレビの音声は雨で聞こえなかった。


 光の明滅が思ったより激しい。モールス信号のような隠れた情報があったとしたら面白いだろうな、と思った。


 友人が、携帯電話を操作してテレビ画面の向きをかえた。

 それは、僅かな角度ではあったが、部屋の様子を把握するには十分だった。

 女性は見えなかった。


…まだ、トイレの中かな


 友人が、テレビ画面の向きをかえてトイレの方を照らそうとするが、少し角度が足りなかった。


 テレビの番組では、ホラー映画の特集をしていた。

 幽霊役の女優が誰かに似ていたような気がしたが、思い出せなかった。


……?


 一瞬、テレビの映像が乱れた後、


¨しばらくお待ちください¨


の字幕が出たまま、放送が止まってしまった。


……。


──雨の音が更に激しくなる。


 その五月蝿い雨の音の中で、小さい台にのったテレビの画面がゆっくりと回り続け、やがて後ろ向きになった。


 そして、前に倒れ床に落ちた。



……。



 テレビ画面の柔らかな光が、天井をぼんやりと照らす。


……?


 その光の向こうで、何かが動いたような気がした。

 それが、ゆっくりとコチラ側に進むとテレビの光に、下から全身が照らされた。


……。


 あの女性が、あの時の顔で下からの光を遮る。

 そして、鼻や口から黒い何かをボトボトと落としながら、誰かを探しているような素振りを見せていた。


……。


 女性は更に数歩進み、光を背にして黒い人影になった。


──雨の音が少し弱まった


 すると、今まで聞こえなかったテレビの音が女性の声で、


《……だ》

《…こだ》


と、言っているのに気付いた。


……?


 友人が携帯電話の¨リモコン¨を必死に操作していた。


──テレビの音量0


《どこだ》

《どこだ》


 女性の声が続く。



 友人は、携帯電話が壊れそうなほど同じボタンを何回も押していたが、女性の体に遮られて、テレビまで¨救い¨の電波は届かなかった。


──わあああああああっ


 友人は、精神的に我慢できなくなり、押し入れの戸を開け部屋へ飛び出した。

 そして、女性の隣を走り抜け、部屋のドアを開けたまま外へ逃げていってしまった。


 女性は、友人の飛び出していった押し入れの中で青ざめている体重3桁を見つけると、体を震わせた。


──次の瞬間


 女性は、体重3桁の目と鼻の先まで近づき、その巨体を押し倒し馬乗りになると、両手で持った¨トイレブラシ¨の柄を頭へ刺してきた。

…うう



 何回も女性の攻撃を受けていた。


 体重3桁の怪力でさえ女性の攻撃を止めさせる事は出来なかった。


──額から赤いものが流れ始めた。


 トイレブラシの柄が折れても、女性は攻撃を続けた。


…う……?


 女性の背後に人影が見えたような気がした。

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