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女性  作者: VISIA
4/13

気付かぬ内に…

──此処は何処だろう?


 今まで、見た事もない世界に立っていた。


……?


──辺りに友人の姿はなかった。


…此処は?


 目の前に川が流れているだけの、何もない¨薄い桃色¨の世界。

 対岸がようやく見えるほどの広い川。

 そして、その向こうには…


…あれ?コンタクトレンズ落としたかな?


 視力が悪く、認識出来なかった。


……?


 突然、川の上流からゴオゴオという水の音が聞こえてきた。

 それはやがて、この世界を覆うのではないか、と思われる程の水量となり、此方へ向かってきたのだ。


…逃げられない!


 大量の水の流れに巻き込まれ、下流へと流されていくと、目の前に洞窟が見えてきた。


 世界を覆う程の大量の水が、その狭い洞窟に不自然に吸い込まれていった。


…ああ、和式なんだな


 体重3桁の体が、洞窟の中へ消えていった。

──体が軽くなったように感じていた。

 ふわふわと、宙に浮いている風船になった気分だった。


…ダイエット成功者はこんな感じなのだろうか?


 ゆっくり瞼を開くと、ボロアパートの自室の天井付近に、床の方を向いて浮かんでいた。


…僕、死んだの?


──だが、此処から見る限り体重3桁の巨体は見当たらない。


…あれ?


 真下に、あの女性があの時の表情で仰向けのまま、横たわっていた。

 その隣で、友人が女性に背中を向けて、携帯電話で話をしている。


《…見つかりやすい場所に…》


──女性が、両脚を揃えたまま重力に逆らって起き上がり、床に立った。


《…あそこのチキン屋か…》


──女性は、その言葉を聞き静かに床を歩いていくと、独りでにドアが開いたトイレの前に立つ。


…そういえば、トイレにチキン屋の¨サンダース¨ポスター貼ってたな。


──女性がトイレに入ると、そのドアが勝手に閉まっていく。


 友人が、電話を終え振り返ると、女性がいないことに気付いてパニックを起こした。

 そして、慌てて部屋を飛び出していった。



………。


──急に部屋が真っ暗になった。


 暗い世界の中、段々カラダが重くなっていく。 そして、エレベーターに乗った時のように、どこまでも落ちていく感覚が暫く続いた後、背中に床の硬さを感じた。


「………ぶ?」


──友人の声が聞こえたような気がして、頭に浮かんだ言葉を呟いた。


「………ぶす。」


──頭を叩かれたような感覚と同時に、意識が遠くなる。


「……だいじょうぶ?」

「…う…う」


 気が付くと、目の前に友人の泣きそうな顔が見えた。


「……あ、…ああ」

「……。」


 夢から覚めた後のように、ぼんやりしていた。

 何か、重要な事を友人に伝えなければ、と思ったが、忘れてしまっていた。


「大丈夫?…頭が体にめり込んでしまっているけど…」

「…もともとです。」


「頭が凹んでいるし…」

「多分…大丈夫…ああ…お腹減った。…ここは何処?僕は…」


「天井のポスター見てごらん。」

「体重3桁アイドルの○○ちゃん…僕の部屋?」


「そう。2人で電柱にぶつかったけど、私の方は爺ちゃんが助けてくれて無傷。」

「…僕は?」


「ぶつかった衝撃で、電柱が倒れたのが良かったみたい。頭が凹んで気を失っただけで済んだようだから。」

「……。」


「体重3桁を此処まで運んだ、元藪医師の爺ちゃんが言ってたし…ぐ。」

「ぐ…。」


──2人の腹時計が見事に重なった。


「…あ、ああ、お弁当買ってくるよ。」

「……うん。」


 友人は、急いで部屋を出て行った。

 友人が、部屋から出て行ったのを確認すると、先ほど4つ折りにした荷物を取り出した。


 それを、広げて元の形に取り繕うと隣に置き、一応簡単な言い訳を考える。


…電柱にぶつかった時うんぬん、と



──もうすぐ、友人が帰って来ると思われる頃


 待ちくたびれて、イビキをかいて寝てしまっていた。

 そして、寝返りを打ったとき体重3桁が荷物の上を転がっていった。


 帰って来た友人が、それを見ていた。

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