気付かぬ内に…
──此処は何処だろう?
今まで、見た事もない世界に立っていた。
……?
──辺りに友人の姿はなかった。
…此処は?
目の前に川が流れているだけの、何もない¨薄い桃色¨の世界。
対岸がようやく見えるほどの広い川。
そして、その向こうには…
…あれ?コンタクトレンズ落としたかな?
視力が悪く、認識出来なかった。
……?
突然、川の上流からゴオゴオという水の音が聞こえてきた。
それはやがて、この世界を覆うのではないか、と思われる程の水量となり、此方へ向かってきたのだ。
…逃げられない!
大量の水の流れに巻き込まれ、下流へと流されていくと、目の前に洞窟が見えてきた。
世界を覆う程の大量の水が、その狭い洞窟に不自然に吸い込まれていった。
…ああ、和式なんだな
体重3桁の体が、洞窟の中へ消えていった。
──体が軽くなったように感じていた。
ふわふわと、宙に浮いている風船になった気分だった。
…ダイエット成功者はこんな感じなのだろうか?
ゆっくり瞼を開くと、ボロアパートの自室の天井付近に、床の方を向いて浮かんでいた。
…僕、死んだの?
──だが、此処から見る限り体重3桁の巨体は見当たらない。
…あれ?
真下に、あの女性があの時の表情で仰向けのまま、横たわっていた。
その隣で、友人が女性に背中を向けて、携帯電話で話をしている。
《…見つかりやすい場所に…》
──女性が、両脚を揃えたまま重力に逆らって起き上がり、床に立った。
《…あそこのチキン屋か…》
──女性は、その言葉を聞き静かに床を歩いていくと、独りでにドアが開いたトイレの前に立つ。
…そういえば、トイレにチキン屋の¨サンダース¨ポスター貼ってたな。
──女性がトイレに入ると、そのドアが勝手に閉まっていく。
友人が、電話を終え振り返ると、女性がいないことに気付いてパニックを起こした。
そして、慌てて部屋を飛び出していった。
………。
──急に部屋が真っ暗になった。
暗い世界の中、段々カラダが重くなっていく。 そして、エレベーターに乗った時のように、どこまでも落ちていく感覚が暫く続いた後、背中に床の硬さを感じた。
「………ぶ?」
──友人の声が聞こえたような気がして、頭に浮かんだ言葉を呟いた。
「………ぶす。」
──頭を叩かれたような感覚と同時に、意識が遠くなる。
「……だいじょうぶ?」
「…う…う」
気が付くと、目の前に友人の泣きそうな顔が見えた。
「……あ、…ああ」
「……。」
夢から覚めた後のように、ぼんやりしていた。
何か、重要な事を友人に伝えなければ、と思ったが、忘れてしまっていた。
「大丈夫?…頭が体にめり込んでしまっているけど…」
「…もともとです。」
「頭が凹んでいるし…」
「多分…大丈夫…ああ…お腹減った。…ここは何処?僕は…」
「天井のポスター見てごらん。」
「体重3桁アイドルの○○ちゃん…僕の部屋?」
「そう。2人で電柱にぶつかったけど、私の方は爺ちゃんが助けてくれて無傷。」
「…僕は?」
「ぶつかった衝撃で、電柱が倒れたのが良かったみたい。頭が凹んで気を失っただけで済んだようだから。」
「……。」
「体重3桁を此処まで運んだ、元藪医師の爺ちゃんが言ってたし…ぐ。」
「ぐ…。」
──2人の腹時計が見事に重なった。
「…あ、ああ、お弁当買ってくるよ。」
「……うん。」
友人は、急いで部屋を出て行った。
友人が、部屋から出て行ったのを確認すると、先ほど4つ折りにした荷物を取り出した。
それを、広げて元の形に取り繕うと隣に置き、一応簡単な言い訳を考える。
…電柱にぶつかった時うんぬん、と
──もうすぐ、友人が帰って来ると思われる頃
待ちくたびれて、イビキをかいて寝てしまっていた。
そして、寝返りを打ったとき体重3桁が荷物の上を転がっていった。
帰って来た友人が、それを見ていた。




