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女性  作者: VISIA
3/13

思惑

…落ち着け、落ち着け


 近くのコンビニで買った、ペットボトルのコーラの1本目を飲み干し、必死に心を落ち着かせようとする。

 そして、2本目を飲みながら体力の回復をはかり、今後の展開を考えていった。


 3本目を飲み干し後、頭の中に焼き付けた計画を実行しようとした時、ペットボトル3本分のゲップが10秒ほど出続けた。


…あ、あれ?


 ゲップと共に、立てた計画も出て行ったらしかった。頭の中が真っ白になる。


…え、えと


 動揺し、手に持っていた自転車の鍵を落としてしまった。


……。


 暗い中、小さな鍵を探すのは無理に思えた。近くの側溝に落ちたかもしれない。


─仕方なく再び、部屋にいる友人に携帯電話で助けを求める決断をした。


「もしもし…」

《あ、手に入れたの?》

「…う、うん。」


《…どうかしたの?》

「え…えと…その…自転車の鍵を…」


《なくしたと。》

「はい。」


《それで?》

「歩いて帰るので、帰りは明日になります。」


《0時頃か?それまで待ってろと。》

「………。」


《タクシーは?》

「月末までには餓死してしまいます。」


《………。》

「あの…迎えに来てくれませんか?」


《自転車しかないよ?》

「お願いします。」


《体重3桁を後ろに積んだ自転車を、私がペダル漕げと?》

「僕がハンドルを握ります。」


《私は?》

「後ろでも、前でも、上でも好きな所で…」


《……肩車か。》

「…肩車です。」


《そうか。》

「そうです。」


《……ソコにある購入したものを私に…》

「差し上げますとも。」


《分かった。今行くから見つかりやすい場所に立ってて。》

「うん。えーと、サンダースの隣にいるから」


《…ああ、あそこのチキン屋か。人形と間違えそうだね。》

「ハハ。じゃあ、待ってます。」



 ちょうど電池切れで、携帯電話が沈黙してしまった。

 通話が途絶える前に、何か友人が言っていたような気がした。


─それから暫くして、友人が険しい表情で自転車を走らせてきた。


 距離はあるものの、アパートから此処までほぼ直線道路である。


 一度スピードにのれば信号待ち無しで減速せずに来れるのだが、それにしても、想像以上の早い来襲だった。


「…え…あれ?ブレーキが…」

「あ、まだ直してない…」


 友人が自転車のブレーキ故障に気付いた時には既に、サンダースの股関へ自転車ごと突っ込んでいた。


……。


 激しい衝突音ともに、自転車とシンクロして倒れた友人は、慌てて自転車を起こし、そのまま此方へ自転車を引いて走ってきた。


「訳は後で話す!すぐアパートに戻って。フォーメーションAっ」

「分かった!」



 手に持っていた荷物を怪力で四つ折りし、Tシャツの中へ突っ込んだ。



 友人から、自転車のハンドルを引き継いで前を向く。そして、自転車を後ろから押す体制を友人がとった時──


「「うおおおおおっ」」


─2人で自転車を押して加速させていく。


 友人より先に自転車に乗り、必死にペダルを漕いだ。

 友人も頃合を見て自転車に乗ってくる。


 この自転車は特別仕様で、ペダルの大きさが2倍、サドルの長さも2倍になっていた。

 ただ、タイヤは3人乗り仕様である。


 脚の長い友人は、サドル後方に座りペダルの外側に足をのせると、前に座っている体重3桁の履くズボンの、ベルトの両脇を掴んだ。




──計4本の脚がペダルを漕ぎ、自転車を恐ろしい程に加速させていく。


 速度は、既に時速70Kmを超えていた。


 風圧と必死さで、2人の顔はキュビズムそのものだった。

「…そろそろだよ」

「…そうだね。」


「…覚悟、出来てる?」

「う…うん。」


 ブレーキの壊れた自転車を止める方法として友人が考えたのは、友人の爺ちゃんに自転車を受け止めてもらおうと言うものだった。


「爺ちゃん…優しいし。」

「…ずいぶん前に¨亡くなった¨って言ってなかった?」


「大丈夫。遺言に書いてあったし」

「……。」


「いくよ。爺ちゃああああんっ!」

「……。」



 2人の前方に、蒼白いモヤモヤした人の形が現れた。


「爺ちゃんっ!」

「……。」



 孫の顔を確認し、彼は2人を受け止める姿勢をとった。

 そして、2人の乗った自転車をがっしり受け止めたのだ。


「えっ?」

「えっ?」


──おやっ?


 世の中には、慣性うんぬんと言うものがある。

 2人は、そのまま前方へ飛んで行き、電柱に激突した。

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