命
──だが、時にはその優柔不断さが、自らの命を救う事もある。
それは本能がさせる、死への抵抗なのではないだろうか…
「さあ、返事を聞かせてくれないかな?」
先程より、死神の声のトーンが低くなった。少し苛ついているようにも思えた。
「キミの友人が死ぬ事になるのだよ。何をそんなにノンビリ考えているのかな?」
「え…えと…」
体重3桁は、ようやく煩悩の数を2桁まで減らした所だった。
友人を助けたい気持ちはあっても、やはり命を失うのは恐いと思い始めた。
体重3桁は、再び煩悩の数を増やし逃げようとした。
……やっぱり…でも…
──体重3桁が、暫く息をするのを忘れて苦しくなった事に気付き、慌てて肺に酸素を取り込む。
…う…でも…
──漫画やアニメのような事を出来るわけがない
体重3桁の思考の方向が、少しずつズレていった。
……復活できないし。
いつしか、死神の声も届かなくなる。
「おい、聞いているのかい?」
「……。」
「ちっ、精神的に引きこもったか…まあ、後で魂を回収しに来れば問題ないしな。」
そう言って、死神が音も無く姿を消すと、友人の声の大きさが元に戻った。
──体重3桁の目前に、友人の顔があった。
「ねえ、聞いてる?…ヒヒ…私の事、嫌いになったのかな?…ヒヒヒヒ」「…わっ……えと…え?…あれ?…死神は…」
「ああ、そうか…ヒヒ。私、死神になったんだ。ヒヒヒヒヒヒ。」
「い、いや、そうじゃなくて…」
「だから、私ちょっと変だったんだね。…ヒヒヒヒ」
「……。」
友人は、ポケットに手を入れて何かを探し始めた。
「じゃあ、私は死神の仕事をしないとね。…ヒヒヒ」
「……?」
──友人はライターを取り出した。
「これで、アナタを成仏させてあげる。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「うわあああああっ」
友人がライターに火をつけた時、ガスコンロから漏れていたガスに引火し爆発、老朽化していたアパートの部屋が一瞬にして吹き飛んだ。
──その後、火災が発生しアパートが全焼してしまった。
──ニュースです。
先程お伝えした、アパートの火災事故の新しい情報が入ってきました。
火は2時間後に消し止められ、焼け跡から2人の男性の遺体が重なるように発見されました。
その内の1人は、この部屋の住人と見られ身元の確認を急いでいます。
──次のニュースです。
今、お伝えした火災現場の近くの交差点で、火災が起きる少し前、道路に突然とび出してきた痩せた若い女性が車にはねられ、病院で死亡が確認されました…




