誰が為に
「ヒヒ、ヒヒヒヒ…」
「……。」
「私、オカシクなったのかな?…ヒヒ。この部屋から私が出て行く所を見たんだよ、信じられる?」
「…あ、それ僕も見…」
「ヒヒ、ヒヒヒヒ、どう思う?…私、変かな。」
「い、いや変じゃな…」
「私、疲れているのかな……ヒヒヒヒ。」
「……。」
友人は、体重3桁を無視して話を続けた。
……?
友人の声が、段々小さくなっていく。
その事に友人は気付いていないのか、そのまま口を動かし続けていた。
──やがて、友人の声は聞こえなくなった。
……?
体重3桁は、耳が遠くなったのかと思い、辺りを見回して友人の携帯電話を拾うと、耳元で着信音を鳴らしてみた。
──着信音は、葬送行進曲だった。
先程とは違う着信音に眉をしかめていると、体重3桁の手を友人の華奢で冷たい手が掴み、無理やり携帯電話を引き抜かれた。
そして、友人は着信音を止めると、ソレを後ろに置いた。
──友人は、再び聞こえない話を始める
……?
友人の後ろに誰かが座っているのに気付いた。
どこかで見覚えがあった。
…あ…友人の爺ちゃん?
彼は、次の瞬間には体重3桁の右側で、友人の方を向いて立っていた。
──友人は、彼が見えていないのか、特に変わった様子は見せなかった。
…あれ?…見えてない?
「私は、そのジジイではないよ。」
「えっ?」
彼は、友人を見たまま話した。
「死神だ。今は、キミにしか私は見えていない。」
「でも昨日、自転車を止める為に友人が呼んだら…」
「面白いと思ってな、あの止め方はワザとだよ。」
「……その時に友人を助けたのは…?」
「私は、助けてはいないよ。…知らぬ話だ。」
「……。」
「良いことを教えよう。目の前の座っている彼女は、もうすぐ死ぬよ。」
「えっ?」
「そこの倒れている女性に殺されるだろう。元々死ぬのは、キミだったのだけれどね。」
「なぜ、友人なんですか?」
「そこの女性に何かしたかい?…もうキミを殺すことは出来ないさ。」
「……。」
「だから、キミの友人が犠牲になる。嫉妬の対象として、復讐出来なかった腹いせとして。……まあ、私にはキミであれ誰であれ、魂が手に入ればいいことだが。」
「……。」
「…ところで、キミは友人を助けたいかい?」
「……?」
「キミが身代わりとなるのだ。そうすれば、友人は助かる。」
「…えっ?」
「…時間をあげよう。女性が起き上がってくるまで考えるといい。私は此処で待ってるよ、ヒヒ。」
「……。」
──友人は、消音状態のテレビのニュースアナウンサーのように、口を動かし続けていた。
体重3桁は、静かな部屋の中で108の煩悩と戦っていた。
……どうすれば…
命の重さが、体重以上に重い事を改めて感じていた。
……ああ、煩悩が増えていく…




