男として
体重3桁は、ためらいながらも電話に出た。
「もしもし…?」
──電話の主は、無言だった
《………。》
「もしもし…」
電話の向こうに誰かがいる雰囲気を感じ、相手が話してくるのを暫く待っていると、
《ザザ……ザザ…》
というノイズが聞こえてきた。
……。
《ザ…ザザ…ザ…ザ》
……?
《ザ…ル…ザザ…イ》
聞こえてくるノイズが段々と人の声へ、
《ザ…ル…シ……イ》
──そして、友人の叫び声へと
《ク…ル…シ……イ》
携帯電話のスピーカを音割れさせて、体重3桁の鼓膜を震わせた。
その声を聞き体重3桁は、携帯電話を放り出してしまった。
──目の前で、女性に首を絞められている友人を見る
……今の電話の声は…でも…
──どちらが本物なのか
……あるいは…
──両方が本物かもしれない
……ドッペル…
突然、先ほど放り出した携帯電話が唸りだす。 やがて、その唸りがギー・ガーという何かに引っかかるようなギクシャクした音に変わり、
──そして、友人のしゃがれた声になった。
《…は…やく…助け…ろ…デヴ…》
……!
電話の声に背中をゾクッとさせながら、体重3桁は押し入れを飛び出した。
その勢いのまま女性へ突っ込んで友人を助けようとしたが、日頃の運動不足は肝心な時に悪影響を及ぼす。
体重3桁は、2・3歩進んで脚がもつれ、標的がズレたまま軌道修正ができず、そのまま華奢な友人へ突っ込んだ。
友人は、その衝撃で女性の手から逃れる事はできたが、体重3桁にまともにぶつけられた弾みで床を転がっていく。
体重3桁は、友人にぶつかった後も自らの勢いを止められず、女性を巻き込んで一緒に床を転がり、壁にぶつかってようやく止まった。
その時、女性は体重3桁の体の下で、仰向けの状態で動かなかった。
頭をぶつけたのか気を失っているようだった。
……。
ブラウスのボタンが取れて、胸元が少し露わになっていた。
女性に馬乗りしていることに気づいた体重3桁は、厚い脂肪の内側からの¨ドキドキ¨という激しい鼓動を抑えられなかった。
……う。
気持ちを抑えきれず、体重3桁の顔が女性に近づく。
そして、その張りのあるピンク色の唇に、深海魚のような、血色の悪い紫色の唇が重なった。
……ああああ
──暫くして
女性から唇を離すと、わずかに開いた口から白い歯が見えた。
その歯と歯の間に、黒く細長い物が挟まっていた。
……鼻毛?……いや…
──先程、女性の口や鼻から黒い物が出てきたのを思い出した
……ぐぇ
キスをした事を後悔し女性から慌てて離れようとした時、女性の胸元に何かが見えた。
……?
体重3桁は、恐る恐る顔を近づけて見ると、それは胸毛だった。
……。
まさかと思い、ためらいながらも右手をスカートの中へ入れていく。
そして、最深部でアレがついているか探ってみた。
──あった。
体重3桁はショックのあまり、部屋の隅に移動して寂しく座った。
そして、動かない女性(仮)をジッと見て、これからどうすればいいのか考えていた。
………。
だが、暫くすると考え疲れて寝てしまった。
頬を伝う涙が乾く事はなかった。
──暫くして、
体を揺らされて、体重3桁が目を覚ました時、目の前に友人がいた。
……。
あの女性(仮)は倒れてままだった。




