まさかね…
男は、見慣れたボロアパートの自室に帰ってきた。
以前、ここの住人が行方不明になっている、という話は聞いていたが、それで少しでも家賃が下がれば悪くない話だと思っていた。
──そして、13日目
帰ってきた男が、部屋の奥へ進んだ時…
男の目の前に、女性が仰向けに倒れていた。
着衣に乱れた様子はなく、何かに驚いたその表情は痛々しく固まっていた。
男は、恐る恐る女性のみぞおち辺りに耳をつけ心臓の鼓動を確認し、ひとまず安心して大きく息を吐いた。
…生きているみたいだな
それにしても、この女性は誰なんだろうか。
──見かけは20代後半ぐらい。薄い水色のブラウスに、茶色のスカートという姿である。
このような顔をしていなければ、一般的に¨美人¨と言われているだろう。
…女性だけに、ポケットを探るわけにもいかないしな
押し入れから毛布を出してきて、顔が隠れるように全身に掛けた。
凹凸の無いその体がミイラのようにも思えた。
…さて、どうしようか
死んでいる訳でもないし、このまま腐敗する事はないだろうが、だからと言って床にずっと寝かせたままでは気持ちが悪い。
顔の所の毛布を捲り、女性の顔を覗き込んだ。
目の前で手を、振ったり叩いたりしてみても反応はなかった。
…完全に気絶しているか体を動かせないか…
脳裏に、白馬に跨った顔の白い王子と女性タレントのコントが浮かぶ。
……。
事態が収拾がつかなくなる前に、友人女性に相談する事にした。
携帯電話でヘルプコールをすると、
《わかった、すぐ行くね》
と、言ってくれた。
──それから30分後、友人が訪ねてきた。
「電話のこと、本当なの?」
「ああ。」
「それで、その女性は?」
「……そこ。」
友人は、横たわっている女性に近づくと、そっと毛布を取り除いた。
そして、スカートのポケットに手を入れていった。
「特に何も無いみたい。」
「そう?」
「うん。でも、どうしたんだろうな…」
「ぼ、僕は何も…」
「ふふ、分かってるよ。でも、何て言うか体が動かせないだけで、私達の話は聞こえてるんじゃないかな?」
「……会話する方法がある、という事?」
「……うん。でも、目で会話は出来ないよ。」
「動いているのが分かる所…心臓?」
「心拍数で会話できるのかな?」
「時間は掛かるけど、早い遅いでYES・NOぐらいは分かるんじゃ…」
「……んー」
「試してみようか。」
友人が、女性の体に耳をあて心音を聴く。
「いいよ。」
「じゃあ…」
女性の耳元で簡単な質問をしてみる。
「今からする質問が正しいなら、心拍数を上げてください。…僕の声が聞こえていますか?」
「……うん、少し早くなった。聞こえてるみたい」
「じゃあ、次はNOの質問だね。」
女性の心拍数が落ち着くのを待った。
「うん、落ち着いたみたい。」
「じゃあ、……あなたは男性ですか?」
──5分が過ぎて
「特に、変化はない……かな。」
「……よかった。」
「ニューハーフかもよ?」
「えっ?」




