宛先多数
「拝啓 5年後のあなたはどういう人になっているのでしょうか。10年後のあなたは5年前よりどう成長しているのでしょうか。」
手紙という物は案外有能だ。時代を超えて、友人、家族、大切な人、はたまた見知らぬ誰かにでも届いてしまう。
私は佐野健二、17歳だ。学校は充実しているとは言えない。友人は一応いる。人並みがどのくらいかは、私には分からない。
勉強は優越感に溺れることがある。
部活などはするつもりもない。わざわざ疲れるようなことをしに行く奴らの意味がわからない。
彼女は、生まれて一度もできたことはない。別に居なくたっていいが、自分の心は、本当に正直なのだろうか。
周りは自分の存在を思い出す瞬間が来るのだろうか。最近よくそう思う。濁った自室を、夕方の日差しが照らす中、途方にくれていると、一枚の白い手紙が目に入った。誰に向けて書いているかは分からなかったが、どうやら未来の誰かに向けている手紙だった。
「10年後のあなたに会ってみたいです。あなたは今よりもずっとハンサムになっているのでしょう。きっと恋人もいる、いや、いるのなら、それ以上の人生を共にするパートナーでしょう。」
「この手紙の作者は相当宛先の人に期待をしているな。」思わずそう呟いた。
「10年後ということはもう就職をして何年か経っている頃ですね。社会に揉まれ慣れた頃なのかな。でも慣れた頃がいちばん自分の本心が見えなくなってくるものだと聞きます。あまり無理をしないでください。」この手紙の宛先は未だに分からない。
手紙の終盤に近づくと手紙を書いている自分のことを話し始めていた。
「私はと言うと、もう自分の本心は見えないぐらいになっています。それでも、この世には希望はあります。私にはもう、その希望を掴むことはできないでしょう。」何故だか分からない。だが、既視感がある。「私はひとつ悪いことをします。ですがあなたはどうか生きて。私のことは何も考えないでください。では、行って参ります。敬具 佐野健二」




