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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第2章

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第14話 竜王陛下2(シドリウス視点)



 シドリウスがランドレイス公爵と同じ夢塞病を発症したのは百年前。

 今でこそ現実世界に戻ってくるのは容易いが、発症当時は何日も夢の世界に囚われて目覚められなかった。


「夢塞病から自力で目覚める方法はただ一つ。自分が夢の中にいることを認識して夢の世界を展開している核を破壊することだ」

「聞いている分には簡単そうですけど。まず認識するのが難しそうですね。シドリウス様の場合は番関連の夢でしたっけ?」


 ヒュドーの言う通り、シドリウスが見る夢は番に出会えず生涯を終えたり、出会えたとても拒絶されたりといった内容のものばかりだった。


「夢塞病の厄介な点は、現実で起こりそうな内容ばかりを見せてくるところだ。夢か現実かが分からず、そのせいで発症した大半の人間が夢の中に囚われて命を落としてしまう」



 それに比べて竜人族は魔力の機微に聡い。

 すべての生き物は微弱な魔力を発しているため、それを感じない場合に夢だと判断できる。だからシドリウスが夢塞病に罹っても、現実世界へ戻って来られるのだ。

 とはいえ、夢塞病自体を治す方法はまだ見つかっていない。


 夢塞病は発症者の体験や精神面から大きな影響を受けて悪夢を形成する。

 最近のシドリウスは、フィリーネに拒絶される夢ばかり見るようになってしまった。


 竜人にとって番は運命の相手。相手の望みはどんなことでも叶えてあげたくなるし、死ねと言われたら喜んで死ぬのが竜人の性だ。

 夢と分かっていても番に拒絶されるのは身を引き裂かれるほどに辛くて苦しい。

 ようやっとフィリーネという番が見つかったというのに、シドリウスは日増しに寝つきが悪くなっていた。


「シドリウス様や公爵が一日でも早く病を完治できるよう引き続き調査してみますね」

「ああ、頼む。ところで頼んでいた例の調査は進んだのか?」

 話を切り上げたシドリウスは次の話題に移る。


 夢塞病の件も重要だが、今から話す内容もまた然りだ。

「もちろんです。フィリーネ様のことならきちんと調べてきましたよ」

 ヒュドーは胸ポケットにしまっていた手帳を取り出してパラパラと頁を捲る。


「フィリーネ様はアバロンド伯爵家の次女。社交界では病弱で屋敷に引き篭もっているとなっていますが、出回っている情報は嘘のようですね。身体が痩せているにせよ、病弱ではありませんから。あと、姉のミリーネ嬢は光の精霊師として有名です。誰にでも分け隔てなく接する美人で『社交界のエトワール』という異名まであるようです」

 ヒュドーの報告にシドリウスの目が鋭くなる。


「つまり伯爵家の者はフィーを虐げている、そういうことだな?」

 食堂で一緒に朝食を食べた時、フィリーネはこんなに豪勢な朝ごはんは生まれて初めてだと言っていた。それが一般的なメニューにもかかわらずだ。

 これまで一体どれほど粗末な食事が与えられていたのか察しがつく。


 シドリウスは剣幕な声で言う。

「今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい。いや、フィーが味わった苦しみと同じものを一族に味わせてやる。そう簡単には死なせないぞ」

 怒りの炎を燃やすシドリウスに、慌ててヒュドーが手で制す。


「落ち着いてください。シドリウス様が言うと洒落になりませんって!」

 番に対して愛情深い竜人は、番を害する者をその手で排除しようとする。

 シドリウスにとって、フィリーネに害をなした伯爵家は消えて然るべきという感覚だった。


「まだ調査中なので早まらないでください。まあ嵐の中、生贄の花嫁として捧げるくらいにはやばい家庭みたいですけど。とにかく、僕の方で動いているので報告を上げるまでは絶対に手出ししないでください」

 ヒュドーが念押ししてくるのでシドリウスは渋々頷く。


「分かった。おまえの報告を待つとしよう。だが、間違いなくフィーを虐げていたという判断が下った瞬間に奴の屋敷を吹き飛ばす」

 ドスの利いた声で宣言したシドリウスは次に疑問を口にする。

「それにしても、どうして姉妹格差が生じているんだ? フィーが光の精霊師ではないからか?」



 今のところフィリーネ本人から精霊師の報告は受けていないし、精霊師が発する魔力もシドリウスは感じていない。

 竜人族は魔力の機微を感じ取れる。もし精霊と契約を結んでいたらすぐに察知できる上、魔力属性まで判別できる。


 アバロンド家といえば光の精霊師一族で有名だが、必ず生まれてくる保証はどこにもない。それはアバロンド伯爵も理解しているはずだ。

(アバロンド家がフィーを虐げている理由はなんだ?)

 眉間に皺を寄せて考え込んでいたら、ヒュドーが手帳を閉じる。


「引っかかりが一つあるとすれば、あの家は昔からシドリウス様たち竜王陛下が作る魔法契約書を大量に発注している点ですかね」

 魔法契約書はシドリウスたち竜人にしか作れない書類で、双方の約束を違えないようにするためのもの。違反者には青い炎で焼かれるという罰則魔法がかかっている。


「重大な契約以外に普通は使わないんだが、そんなに必要になるものか? 何か知られたくない秘密でもあるんだろうか?」

 訝しむシドリウスにヒュドーも同調するように頷いた。


「この国唯一の光の精霊師一族ですし、悪い噂は聞かなかったのでこれまでは申請があってもすんなり通していました。しかし、フィリーネ様の件できな臭さを感じます。併せて調べてみますね」

「そうしてくれ。俺も今はフィーを存分に甘やかすことに専念する」


 もうすぐ十八歳になる割に、フィリーネはどこか幼い。

 まだまだあどけない顔をしているし、身体も小さい。妻としての役目を負わせるには荷が重いだろう。そして何よりも、フィリーネにはきちんと自分を好きになってもらってから、すべてを受け入れて欲しい。


 シドリウスは今朝の出来事を思い出す。自分の小指を差し出そうとしたフィリーネの行動には肝を潰したがあれには理由があった。

 カロン曰く、東方の国では愛の証しに小指を切り落として渡す風習があるのだとか。


(俺のためにそこまで本気になってくれるのはありがたいし嬉しい。だが、フィーはまだ俺のことを何も知らない。名前で俺が竜王だと気づいたから誠意を示してくれているのだろうが、俺としては竜王のシドリウスではなく、ただのシドリウスとして好きになってもらいたい)


 人間には番という概念が存在しない。

 番だから愛したいという感覚もないらしい。


 種族が違うのだから当然だ。だからこそ、自分の中身をじっくり知って受け入れてもらえたらと思う。

 一方的な束縛では、相思相愛どころか心が離れていってしまうから。


(フィーには少しずつ俺を好きになってもらおう。それと、まずはフィーの身体が一番だ。地上で快適に暮らし、健康になってもらわないとな)


 厚切りベーコンを幸せそうに食べるフィリーネを思い出したシドリウスは、クスリと笑う。やがて、顔を引き締めるとバルコニーに出た。


「さて、出発するぞ」

「はい。――いざ、空都へ!」


 ヒュドーのかけ声でポールハンガーからグラウクスが羽ばたく。

 シドリウスとヒュドーの二人は宙に浮くとそのまま風に乗って空高く飛んでいった。



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