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迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~  作者: 小蔦あおい
第2章

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第10話 新たな生活



 シドリウスの生贄の花嫁になったフィリーネは、三日間の療養を得て体力を回復させた。

 その間、フィリーネの身の回りの世話をしてくれたのは、カロンという名の侍女だった。


 カロンは食事や服を用意してくれたり、お風呂を作ってくれたりと甲斐甲斐しく動いてくれた。あまりの手際の良さに、フィリーネは何度も舌を巻いた。

 因みにシドリウスの屋敷で働いている人員はヒュドーとカロンの二人だけ。



 ヒュドーはシドリウスの秘書なので、屋敷仕事のほとんどはカロンが担っている。

 屋敷の中を実際に歩いたわけではないけれど、窓からは二階建ての建物が見える。アバロンド家の屋敷よりも小規模だけれど、それなりに大きい。カロン一人で切り盛りするのは大変そうだ。


 屋敷の主人であるシドリウスは、書斎で仕事に勤しんでいるようだが、フィリーネが心配で度々顔を出してくれた。

 顔を出す度にお見舞いの花を持ってきてくれるのが嬉しかった。


 シドリウスと他愛もない話をしていくうちに分かったことだが、彼は医者ではなかった。何の仕事をしているのか訊きたかったけれど、ヒュドーに連れ戻されてしまったので謎のままである。



「オルクール王国について随分詳しい様子でしたし、竜王陛下のお仕事を手伝っているのかもしれませんね」

 竜王陛下のシドリウスに仕える、同族のシドリウス。名前が一緒なので面白く感じる。


 くすりと笑いながら、窓から空に浮かぶ空都を眺めていると、どこからともなくひらひらと闇の精霊――紫紺蝶がやって来る。


 紫紺蝶はフィリーネがこの屋敷に来てからも頻繁に顔を出していた。いつもなら決まって夜にやって来るのに、今回ばかりは心配してくれているのか朝にも訪ねてきてくれている。



「心配してくれているんですか? 私ならもう大丈夫ですよ。シドリウス様たちのおかげで元気になりましたから」

 二匹の紫紺蝶はフィリーネの頭上を舞いながら紫に光る鱗粉をかけてくれる。この鱗粉には不思議な効果があり、浴びると心が落ち着いてよく眠れるのだ。

 フィリーネは頭上を飛ぶ紫紺蝶に向かって人差し指を差し出した。


 二匹の紫紺蝶は鱗粉を振り撒くのをやめると、交わって一匹になる。続いてフィリーネの指に留まった。

 翅をゆっくりと動かしながら休む姿は愛らしい。


 因みに、精霊の姿形は様々だ。ミリーネの契約している精霊は猫の姿をしていて、光の精霊の名に相応しく毛並みは黄金色でキラキラと輝いていた。

(紫紺蝶を贔屓しているのかもしれませんが、この子に言い伝えのような危険性はないと思います。闇の精霊は本当に光の精霊の天敵なんでしょうか?)


 疑問を心のうちで呟いていたら、控えめなノック音が聞こえてくる。

 人差し指に留まっていた紫紺蝶がふわりと飛び立つ。何度かフィリーネの周りを飛んだ後、窓をすり抜けて姿を消してしまった。



「どうぞ、入ってください」

 フィリーネが声かけをすると、扉からひょっこり顔を出したのはカロンだった。

「おはようございます。お嫁様」

 カロンは丁寧にお辞儀をして挨拶してくれる。


 動きやすい黒のワンピースに、白のエプロン、メイドキャップ。侍女の格好をしているが、品の良い佇まいをしているのでドレスを着ればたちまち淑女に様変わりしそうだ。

 見た目の印象から、恐らくカロンは二十歳くらいだろう。栗色の髪は綺麗にまとめ上げ、微睡むような杏色の瞳はおっとりとした印象をこちらに与える。


「お召し物を準備したのでございますよ」

 カロンは抱えていた服をベッドの上で広げてみせる。

「わあっ!」

 フィリーネは目の前の服を見て感嘆の声を上げた。


 丸襟のレースと膨らんだ袖が可愛らしい、卵色のワンピース。スカートの裾には小ぶりな草花が緑の糸で織りだされている。

 これまでまだら模様のごわごわなワンピースを着ていたフィリーネにとって、用意されたドレスは天にも昇る心地がした。


「とっても素敵です。今着ている服も着心地が良くて最高ですよ」

 実はフィリーネが着ている服はすべてカロンのお手製だ。

 何でも、カロンの趣味が服作りらしく、彼女の部屋にはたくさんの服が衣装ケースに眠っているらしい。


「ただの趣味ではございますが、針子冥利に尽きるのでございます」

 お礼を伝えたフィリーネは、ワンピースを持って間仕切りの後ろに回って着替え始める。

 初めて袖を通すワンピースは肌触りが良く、心地が良い。

 着替えを終えたフィリーネは姿見の前に立ってみる。


 ひび割れた眼鏡をかけているところだけが残念だけれど、鏡に映る自分が自分じゃないみたいな気がしてなんだか照れくさい。

「よくお似合いでございます。せっかくなので御髪(おぐし)も整えさせていただきます」


 カロンはフィリーネの後ろに立つと、櫛で梳かしながら白銀の髪を簡単にまとめてくれる。背の高いカロンの顔が鏡越しにうっとりしているのが見えた。



「お嫁様の髪は絹糸のようでございますね。とても綺麗でございますよ」

「えっ、そんなことないのでございますよ!?」


 動揺してカロンと同じ言い方で答えてしまった。

 まさか忌み子の象徴である白銀の髪を美しいと褒められる日が来るなんて。ハビエルやミリーネからは散々気味悪がられていたので驚いてしまう。


(きっとカロンさんはお世辞で綺麗だと言ってくれたのでしょうね。……でも、このワンピースは髪色に合っている気がします)

 フィリーネは改めて姿見に映る自分をまじまじと観察する。

 頬が自然と緩んでいて、浮かれているのがよく分かる。


「ありがとうございます。カロンさん、とても嬉しいです」

「どういたしまして。シドリウス様より支度を手伝うよう言いつけられております。お嫁様はこれから食堂でシドリウス様と朝食をご一緒するのでございますよ」

「ちょうしょく、朝食……あっ!!」


 夢心地だったフィリーネはハッとする。自分の本分が何であるかを思い出したのである。

 フィリーネはぐるりと後ろを振り返ると、カロンの両肩をガシリと掴んだ。


 いきなりの行動にカロンは身体をびくりと揺らす。

 フィリーネは必死の形相で訴えた。

「カロンさん、お願いがあります。食堂へ行く前に私を厨房まで連れて行ってください!!」



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