表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妾の心が導く儘に  作者: ぬまし
僕と妾はこうして出会った

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/49

第十四話  吸血鬼は計画する

 結局チャーハンの半分以上はククルが食べて、僕はラーメンと少しのチャーハンでギブアップした。

 ククルは辛口ラーメンに餃子、僕が残したチャーハンをすべて平らげて、満足そうにお腹をポンポンと叩いている。彼女の小さな体のどこにこれだけの質量が収まっているのか、まったく不思議でしょうがない。

 とはいえ、大食いのククルもさすがにお腹いっぱいなようで、僕たちは食後ののんびりタイムに入っていた。


「チャーハン、押し付けちゃってごめん」

「気にせずともよい。美味かったしの」

「よかった。ありがとう」

「それよりも紅、さっきの話じゃが……」

「あぁ……やっぱり本気?」

「本気。おぬしが遊びに来てもよいと言ったのじゃ。男に二言はあるまい?」


 水を喉に流し込みながら、ククルは話を巻き戻す。

 “ククルが僕の家に遊びに来る”。まさか出会って三日目でこんな約束をすることになろうとは――


「さっきも言ったが、おぬしは水曜と土曜がバイトなのじゃろ?平日は講義と実験で時間あわせづらいじゃろうし、来週の日曜でどうじゃろうか」

「まぁ、来週なら……多分大丈夫」

「妾は明後日突撃してもよいがの」

「勘弁して……」

「あっはは!」


 一週間も猶予があれば人を招く用意はできるだろう。

 ただ、僕は自分の家もとい部屋に友達を呼んだことがない。今まで友達がいなかったのだから当たり前ではあるけれど、それゆえ具体的に何を用意すればよいのか、いまいちピンときていない。

 今回はそれに加えて、相手が女性というのが厄介だ。コップなどは新しいものを用意するとして、あとは何がいるだろう。消臭剤?


「まっ、せいぜい恥ずかしい物は片付けておくのじゃな」

「……余計なお世話」


 恥ずかしいものはパソコンの中にしかないから大丈夫――なはず。

 そんな呟きを心に秘めながら、僕は脳内で買い物リストの作成を始めた。


「時間はどうしようかや?あと、車で行っても大丈夫かの?」

「僕は一日空いてるからいつでもいいけど。車は……たしか、来客用の駐車スペースがあったはず。今度写真送るよ」

「なら、昼過ぎに行こうかの。夜にどんちゃん騒ぐわけにもいかぬ」

「昼でもどんちゃん騒がないでよ……?」


「夜までいる気?」というツッコミを水とともに喉の奥へ押し流す。

 ――そうだ、飲み物も買わないと。冷やした水道水を客人に出すわけにはいかないし。


「……はぁ。いいのう、一人暮らし。羨ましいのじゃ」

「そういえばククルって家近いの?」

「車で二、三十分ぐらいかの。まぁ、近くも遠くもなくといったところじゃ。電車通学に比べればマシかの」

「それは……なんとも微妙なラインだね。研究室に入ったあとも通えちゃいそうなのが、なんとも」

「そうなのじゃ。いっそ遠ければ説得もしやすいのじゃが」

「……勝手な想像だけど、お父さんは許してくれなさそう」

「よく分かっておるの、その通りじゃ。すでに何回かお願いしておるのじゃが、ぜーんぶ『ダメ』の一点張りじゃ」


 娘を大切に思うお父さんなら当然のことだと思う。とはいえ、三年生になって研究室に入ったあと、通学に三十分、しかも車で通うとなると――大学の近くに一人暮らしをする方が楽なのは間違いない。

 実家通いにも一人暮らしにも利点はあるとはいえ、今後を思うと後者の方がよいと僕は思うけれど、僕が人にとやかく言うことではない。これはお金が関わることだし、家庭の事情にもよることだ。


「……まぁ、ゲームぐらいならいつでもやらせてあげるから、頑張って」

「ぁえ?……なんか急に優しくなって怖いのじゃが」

「失礼な。人の親切心を……」

「じょ、冗談じゃ!嬉しい、嬉しいのじゃ!」


 ククルの今後を思って投げかけた親切心は、なぜか恐怖心を煽ってしまったようだった。




「じゃあ、約束通り今日は僕が奢るよ」

「そういえばそういう話をしておったの」


 あらためてメニュー表を確認して、ククルが食べた分を計算する。

 ククルが食べたのは辛口ラーメンと餃子。暗算で事足りるレベルの足し算の結果――


「少なすぎる……」

「どうしたのじゃ?」

「今日のククル、千円も食べてないから、僕が奢ってもらった分を返せない」

「そんな数百円程度気にせんでもよいじゃろ」

「金額ずれないようにって話してたじゃん。そっか……足りない方は考えてなかったな……」


 次回の食事へ持ち越すにしても、残りの金額が微妙過ぎる。それこそ面倒だからとククルはチャラにしようとするだろう。


「……ククル、もう一品頼まない?」

「妾のお腹をはち切らせるつもりかや?」

「だよねぇ……」


 今できることは、ククルの言葉にのって数百円は大目に見てもらうこと、もしくは、次ククルと出かけることがあったら、そのときに数百円分を清算すること、のどちらかだ。

 僕が頭を悩ませていると、ククルは何かを閃いたのか「そうじゃ」と声をあげた。


「そんなにおぬしがきっちり清算したいというのなら、こういうのはどうじゃろうか」

「なに?」

「このあと、コンビニでアイスを奢ってもらう」

「……お腹いっぱいなんじゃないの?」

「アイスは別腹じゃ」

「な、なるほど……?」

「それでも足りんというのなら、来週の日曜日の準備代にするとよい。それなら、むしろ払いすぎなぐらいじゃろ?」

「そ、それは……そうかもしれないけど」

「んじゃ、それで決定じゃ。支払い頼むぞ、紅」


 この話は終了と言わんばかりに、ククルは立ち上がる。こうなってしまったら、僕が口を出したところで結果は変わらないだろう。

 僕は財布を取り出しながら、スタスタとレジまで進むククルを追いかけた。




「ありがとうございました~」

「ごちそうさまでした」


 お会計を終えた外に出ると、日は完全に暮れていて、秋の涼しさが顔をのぞかせていた。長かった残暑も、ようやく終わりを迎えるようだ。

 熱いものを食べたあとだからか、今はこの絶妙な気温がちょうどよい。


「んじゃ、近くのコンビニに寄ってから、おぬしを送ろうかの」

「お願いします」

「そういえばおぬし、今日は歩きなのかや?」

「自転車だけど……ここからなら家の方が近いから、家でいいよ。明日休みだし」

「りょーかい」

「お手数をおかけします」


 僕が車に乗り込むと、ククルは「すぐまた降りるから」と僕の膝の上に荷物を投げおく。それもそうだと甘んじて受け入れる僕を確認してから、ククルはすぐに車を発進させた。



 ***



 コンビニは、歩いた方が早く着いたのではないかと思うほどの距離にあった。こっちの方は大学やバイト先と逆方向だから、あまり詳しくはない。ククルとご飯を食べに来たから気づけた、新しい発見だ。


「ククル、どのアイスにするの?」

「おぬしのおすすめはあるかの?」

「え?えーっと……」


 売り場を見渡すと、一昨日も学食で食べた六つの円錐台のアイスが目に入った。アイスのおすすめと言われてもピンとこないけれど、僕が食べるアイスを思い返したときに、一番記憶にあるのはこれだ。


「これかなぁ」

「んじゃ、それにしようかの。おぬしはどれにするのじゃ?」

「え?買う気なかったんだけど」

「つれんのう。おぬしは妾が食べるところをマジマジと見続けるきかや?」

「……もう。わかったよ」


 なんとなくククルと被るのは気が引けて、近場にあった大福のようなアイスを手に取る。ククルから僕のおすすめアイスも受け取って、一緒にお会計を済ませた。


「はい、ククルの分」

「どーも」


 涼しくなったとはいえ、アイスはアイス。

 溶けないうちにと、店の外へ出るなり、すぐにククルの分を彼女へ渡す。


「“夜に友達とコンビニでアイスを食べる”。ん~!いいシチュエーションじゃ!」

「随分と限定的なシチュエーションだこと」

「おぬしにはわからぬかぁ~、この青春シチュの良さが」

「せいしゅ……って、分かるわけないでしょ、友達いないんだから」

「今はおるじゃろ?さっ、溶ける前に食べるぞ」


 ククルは僕に笑顔を向けて、さらっとそんなことを言ってみせる。

 彼女は僕のことを友達だと思ってくれている。純粋にそう思っているから、そう口にしているだけ。

 ――僕にとってもククルは友達だ。

 そう思おうとしている僕にとっては――心のままの彼女の言葉は、たちが悪く感じてしまう。


「ほれ、一つ食うかの?ハート型じゃ」


 ――本当に、たちが悪い。


「……ハート型はレアだからもらえないよ」

「んじゃ普通のやつ」

「奢った意味……」

「細かいことを気にするでない。どうしても気にするというのなら、おぬしの食いかけを食べてやろう」

「……はぁ。こっちも食べたいのね。食いかけじゃなくて食べてない方あげるから」

「ありがと!お礼に、も一個あげるのじゃ」

「奢った意味!!」


 ツッコミもほどほどに、僕の容器に無理やり乗せられた円錐台を口に運ぶ。

 一度噛めばチョコの中からバニラアイスが出てきて、口の中いっぱいに甘さが広がっていく。

 いつもと同じ甘さのはずなのに、今はなぜかズキズキと胸が痛んで、ほろ苦い。

 ――どうやら青春の味は、僕には耐えがたいもののようだ。




 食べ終えたアイスのゴミを捨てて、僕たちはあらためて車に乗りこむ。

 今日も今日とて、いろいろ想定外のことが起きた。そんな一日ももうすぐ終わると思うと、急にドッと疲れがこみ上げてくる。


「今日も楽しかったの~!」

「実験は楽しくなかったけど」

「妾は楽しかったぞ?おぬしの知らない一面も見れたしの」

「忘れて!……って言いたいけど、ククルには隠せないな。これからもお世話になるだろうし」

「あっはは!頼りにするとよい!大船に乗ったつもりでの!」

「お言葉に甘えさせてもらうよ。情けない限りだけど」

「なに、完璧な人間なんて存在せぬ。そんなに卑下せずに、妾との実験を楽しむことじゃな!」


 ククルはひとしきり笑ったあと、荷物を僕の膝の上にのせる。次に降りるのは僕だけだけれど、送ってもらう身で苦言を呈するのもどうかと思って、彼女の荷物も一緒に抱えることにした。


「……もっと早くおぬしと――」

「え?」

「なんでもないのじゃ。帰るぞ、紅~」


 ボソッと呟いたククルの言葉はエンジンの音でかき消されて、僕の耳には届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ