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女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


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嘆きの皇宮

「レティシア! いったい何があったんだ!」

「レギアス様……」


 夕方、大会議室に詰めて対策を話し合っていると、近衛に連れられてレギアスが駆け込んできた。昨日言った通り一日で戻れたようだ。

 両親を失い、悲しみと責任に押しつぶされそうな私には、自分以上に強いと唯一思えるレギアスの存在がとても頼もしく見えて。

 どうしよう、いまにもまた涙が零れそう。


「僕から説明するよ」


 私の隣にいたサラディールが進み出る。

 サラディールは八歳年上の従兄で26歳。私より濃い金の瞳に珍しいグリーンの髪で、いまは大神官の証である神器の片眼鏡(フラッタの瞳)をかけている。

 教団の仕事で昨日まで地方にいたから、レギアスとは初対面なのだった。


「僕はサラディール・ルナメリア。レスタの大神官で、レティの従兄だ」

「レティ?」


 レギアスの目元がピクリと痙攣する。

 レスタはセレスティアを崇める国教。優しい顔でお花畑を守る我が国の闇……

 

 サラはいつものようにとても冷静だ。けれど、おそらくレギアスのことをこころよくは思っていない。

 女神を崇拝する教団の実質上のトップだ。私のことを何より大事にしてくれている。レギアスが強引に迫ったことは報告を受けているだろうし……内心は怒り狂っているかも。


「深夜に両陛下が暗殺されたんだ」

「な、まさか……」

「残念ながら本当だ。しかもレティを拐おうとしてね。結界術で難を逃れたけれど」

「なんだと」


 レギアスは殺気が漏れそうになるのを必死に抑えているようだ。虹彩の一部が黒く染まり、鬼気迫る形相になっている。


「敵が諦めたかどうかわからないから、レティがずっと気を張っているんだ。君が帰ってきたことだし、レティを休ませてやってほしい」

「……わかった」

「僕の大事な妹を、くれぐれも頼んだよ」


 サラの目からものすごく冷たい空気を感じる……

 威圧に一瞬視線を合わせ火花を散らしてから、レギアスは何も言わずに私を横抱きにして部屋へ向かった。自分だけ休むことに申しわけなさを感じつつも、ほっとする。私も無言で身を任せた。

 廊下に出ると騎士や官僚が慌ただしく駆け回っている。聖宮内はいつになくザワついていて、まるで何もかもが変わってしまったよう。

 

 リビングのカウチソファに座らされると、侍女たちがお茶を用意してくれた。紅茶と蜂蜜の香りにほっとする。

 私に合わせてか気丈に振る舞ってはいるけれど、侍女たちはみな目元が腫れている。空気が痛々しい。

 レギアスは上着を脱いで背もたれに掛けると、また私を抱き寄せて自分の胸に私の顔を押し付けた。


 ザックリとした黒のシャツは柔らかくて、レギアスの匂いと体温が私を包み込む。

 張り詰めた気持ちの糸がすっかり切れ、ぼんやりと身を預けた。


「わたくし、レギアス様の匂い、好きみたいです」

「そうか。……ずっとここで、好きなだけ泣いていろ」

「わたくしはもう皇主です。泣いたりしません」

「嘘つきだな、もう泣いてるぞ?」

「え? うそ……あれ?」


 知らぬ間に涙が静かに流れ落ちていた。自覚した途端さらに湧き上り、ボロボロと零れてレギアスのシャツを濡らしていく。


 ⋆ ⋅ ⋆ ⋅ ⋆


「レティシア、ディナーの時間だけど……食べれるか?」

「え? ディナー? 朝じゃないのですか?」

「ごめん、兄貴たちが来てるんだ。ソーマの協力があったほうがいいだろ? ディナーの席で話し合うといいかと思って」


 あ、ああ、そうか。

 お父様とお母様が、亡くなったんだ……

 動悸と共にまた涙が湧き上がりそうになるのを必死にこらえる。

 皇宮を覆う結界は――大丈夫、維持できている。


「私が直接施した祝福がないと結界を抜けられません。マティアス殿下はどこに?」

「兄貴たちは外相の屋敷にいる。呼ぶから祝福をかけてやってくれ」


 マティアス殿下が護衛の竜騎士とともに正門前に飛んできた。

 彼は薄茶色の髪に明るいブルーの瞳が爽やかな26歳で、レギアスとは全然似ていない。ソーマ王は妃がたくさんいるから、おそらく腹違いなのだろう。

 パーティなどで何度か会ったことがあるけれど、切れ者だと評判だ。


「お久しぶりですレティシア姫。いえ、陛下。大変な時に訪ねてきてしまい申しわけありません。もう既に家族だと思って、僕らに協力できることがあればなんなりと仰ってください」

「マティアス殿下。ご厚情感謝しますわ。ぜひともお力をお貸しください。それと、未来の妹に敬語はやめてくださいませ」

「ふふ、こんなに素敵な人が妹になるなんて嬉しい限りです。わかりました。これからはいままで以上に協力関係を築いていきましょう」


 マティアス殿下と竜騎士たちに祝福を施し、ディナーの席へ向かう。

 賓客をもてなすためのダイニングルームでは大臣たちとサラディール、サラの父である叔父が席についていた。

 叔父は皇族の代表、サラは教団(レスタ)の代表として、さらに聖印の術者として私のなるべく近くに侍るようにと来ているらしい。

 部屋の壁沿いには官僚たちが資料を持って控えている。


 横に長い大テーブルの中央に座ると、レギアスが隣に座った。逆隣に座るサラが気に食わないようだけれど我慢してもらうしかない。

 マティアス殿下と一行も席につき、とりあえずは食事を楽しもうということでものものしい話は控えられた。少しだけ喉を通ったけれど、あまり味が分からない。


 デザートが出るとともに、書類を持った官僚から刺客の情報などが伝えられる。


「陛下を(かどわ)かそうとした刺客の目撃情報は出ませんでした」

「両陛下の護衛の暗部が報告するには、前皇主陛下のお倒れになったあと、皇后陛下の元へ駆けつけたところ目の前で刺されたとのことです。実体のない何者かに」

「暗殺者も影魔術の使い手とみて間違いはないだろう」


 法相と宰相を中心に議論が続く。

 生々しい報告に胸が重い。

 

「俺の不在を狙ったのか? 俺とレティシアのことは発表前だったのに」


 レギアスの呟きに宰相が応える。

 

「皇宮内に潜み、誘拐する隙を窺っていたのやもしれません」

「レティシアを拐った竜戦士の仲間があの戦場を監視してたなら……俺達のことを知るのも容易だったし、そのまま後を追ってきて入り込んだのかもしれないな」

「確かに……レギアス殿下のことを知って焦ってことに及んだというところか……」

「私を狙ったついでに、お父様とお母様を殺したのかしら……」


 また涙がせり上がってきた。体が小刻みに震えてくるけど、どう止めていいか分からない。


「すまない、俺はレティシアとそろそろ部屋に下がることにする。話はまた明日教えてくれ」

「ええ、それがよろしいかと」


 レギアスはうなだれる私を無理やり抱き上げ、挨拶もおざなりに部屋に下がった。

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