表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/28

漆黒の悪魔

「やめてください!」

「なぜ?」

 

 ようやく離してもらえて咄嗟に叫んだけれど、レギアスは薄笑いを浮かべながら首を傾げた。

 なぜって、なぜってなんなの!


「助けていただいたとはいえ、婚約者でもない見ず知らずの殿方とこっ、このようなっ!」


 私って助けられたのよね? そう思っていいのよね??


「嫌か?」

「嫌です!」

「そうか……」


 そう言うと、突然強く私の手首をつかみ、玄関口の方へ引っ張っていく。


「いたっ……な、なにを」

「お前は俺の妻にする」

「え!?」

「もう俺のものだから、諦めろ」


 帝国の皇帝といいこの男といい、人をなんだと思っているのよ!


「や、嫌です。いやっ! 離してくださいっ!」

「嫌がられると燃えるって本当だな」


 レギアスは美しい顔をこちらに向け、妖しく微笑んだ。

 ぞっとして背すじが凍りつく。逃げなければ……

 

「カチッ」


 レギアスがドアの前で指を動かすと鍵の開く音がした。

 しっかりとした造りの山荘なのに、いったいどんな魔術を……


「あ、あのっ! ……わ、わたくしは、この国を離れるわけにはいかないのです」

「俺がこの国に住めばいいか?」

「えっ!? で、では……わたくしのために、戦ってくださいますか?」

「妻のために戦うのは当然だ」


 …………

 この人の服、知っている竜騎士の制服とは色違いで装飾も豪華だ。

 昨年就任した竜騎士団長は恐ろしく強くて残忍で、侵略軍を単騎で皆殺しにしたと噂で聞いた。漆黒の悪魔と呼ばれているとか。

 ……この人なんじゃない?


 こんな凶悪な魔力の持ち主を敵に回すわけにはいかない。

 帝国に対抗するためにも、取り込んでしまったほうが……

 

 私の頭が打算まみれになっているあいだに、レギアスは玄関を開けていた。強引に手を引かれ中に入ると、閉じたドアに押し付けられる。

 また唇を奪われ、胸当ての金具に手が伸びた。

 服を脱がされる! やはりここで純潔を奪われてしまうの!?

 慄然とするものの、抵抗できる気がしない。


 手立てはある。……けれど。

 ここで止められたとして、問題はそのあとだ。

 報復されたりしたら、守りきれる自信がない。

 

 胸当てを乱暴に外して投げ捨てられ、詰襟の上着のボタンを外された。あらわになった胸元に何度も荒々しくキスが落とされる。

 すぐにでも逃げ出したいけれど、身がすくんで動けなくて。

 とにかく、このまま一方的に餌食になるわけにはいかない。私は皇太女としての矜恃を奮い立たせた。


「ま、待ってっ……あの、一方的なのは嫌です! わたくしが貴方のものなら、貴方もわたくしのものになってくださいますか?」


 必死に訴えるとレギアスは一瞬キョトンとして、ニヤリと(わら)った。私の耳に唇を触れさせながら嬉しそうに囁く。


「ああ、俺はもうお前のものだレティシア」


 耳に触れる熱い息と唇の感触に、体が震えて声が漏れそうになる。

 いっそ身を委ねてしまえば恐怖から逃れられるのでは。

 ついにはそんな思考に囚われている自分に激しく嫌悪感を覚える。

 

「わ……わかりました。あなたの……妻……に、なりますので。どうかこれ以上は……触れるのを、やめてください」

「妻になるのに、触れてはいけないのか?」

「正式に結婚してから、で、なければ……いや、です」


 すっかり先程の勢いはしぼんでしまって、なんとか言いたいことを言いきる。もう息も絶え絶えになってしまった。


「俺のものにしておかないと安心できない」


 この男はっ! 本当に聞き分けのない!

 

「この国では、女性の貞操を奪ったからといって、自分のものになどできませんっ!」


 胸を強く押して抵抗する。ようやくレギアスの顔が耳から離れた。ほっとしたのも束の間。

 

「へぇ、じゃあどうなるか試してみるか」

 

 銀の瞳が爛々(らんらん)と輝いている。(たの)しそうに口角を釣り上げ、獲物を狙う獣みたい。

 こわ、怖い。


「むっ、無理やり襲ったりなんてしたら死んでやるんだからっ!」


 必死で金切り声を張り上げた。

 嘘だけど。将来の国主がそんな無責任なことはしないけれど。

 なんとか残っていた勇気を総動員して精一杯睨みつけた。

 

 うう、ダメだ。涙目だし身体はぷるぷると震えているし、全然気迫が出せない。

 もう無理。もう、疲れた。


「……くっ、ふふっ。かわっ……」


 いきなり笑いだして慌てたように言葉を止め、改めて私の顔をまじまじと見ると、


「ふふふっ、可愛いな……」

 

 また笑いだした。

 手で顔を隠したりしながら、可笑しくてしかたないといった感じで無邪気に笑っている。

 ずっとこんなふうならこの人も可愛いのに。

 

 なんだか馬鹿にされているみたいだけれど、もう怒る気力も尽きてしまった。

 魔力も消えたし、少し、休憩させてほしい……

 

「そうだな……とりあえず今日は我慢しておいてやる」

「あ、あのっ! では、わたくしを戦場まで戻してくださいっ」

「嫌だ。まだ二人きりでいたい」


 手を取り指をきゅっと握られると、凄く真剣な顔で言われた。美しさが際立って凛々しくて、見つめられるとソワソワと落ち着かない。

 心臓がうるさく鳴ってもう頭はクラクラしてきた。早くみんなの元に帰って安心したいのに。

 

「お飾りではありますが、わたくしはあの軍の総大将なのです。士気が下がってしまいますし、みな必死に探していることでしょう」

「この国では巫女を総大将にするのか? 女神の国はさすが変わってるな」


 あ、この人は私を巫女だと思っているのか。皇女だと知らなければ普通はそう思うわよね。一般人にはありえない神聖力だし。

 もう正体を明かしてしまったほうが扱いを改めてもらえるかもしれない。

 

「わたくしは、この国の皇太女です」

「は?」


 レギアスは間抜けな顔で絶句した。

 しばらくすると「あーそうか、そういうことか……」などとブツブツと呟きだす。

 また魔力が静かに湧き出し、虚空を見つめる瞳が狂気じみている。「殺す」などと不穏なワードまで聞こえたかと思うと、もの凄い形相で笑いだした。

 

 何が「そういうこと」なのか気になるけれど、とても話しかけられない。

 理解不能の怪物を前に、もう立っていることすら難しかった。


 ほどなくしてレギアスは私の様子に気づいたようだ。慌てて平静に戻ると、凶悪な魔力がすうっと消えていく。


「怖がらせて、すまない」


 そう言うと震える私をそっと抱きしめた。安心させようとしているのかもしれないけれど、まったくの逆効果だ。

 必死に抑えていた涙がすっかりあふれ出て止まらなくなってしまった。

 

「俺はソーマ王国の第二王子だ」

「えっ……」


 漆黒の悪魔って第二王子だったの? まさか、別人?

 ……どうしよう、身分が釣り合ってしまった。

 往生際の悪いことに、両親がなんとか話を無かったことにしてくれる結末を期待していたらしい。

 でもどうやら、条件は私の結婚相手としてこのうえなく申し分ない……


 ソーマは海峡越しの隣国。兄弟国のような関係の最古の同盟国なうえ、国王は父の親友だ。

 不自然なほど第二王子の話は聞かないと思ったらこんな人物だったとは。何度か会ったことのある第一王子のマティアス殿下はとても感じのいい人なのに。


 ……なんだかひどく疲れた。もう何も考えたくない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ