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女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


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竜王

 人化を解いたシャリーアに乗り、竜王の元へ向かう。

 近くで見るとあまりにも巨大だ。黒曜石のような尖った鱗は一枚一枚が私の身長を優に超える。

 

 レギアスは既に竜王の口元へ駆け付けていた。何もできずにおろおろしている。

 私はひとまず痛みを取り除く神聖術を竜王に施した。


「レティシア!」

「ダメじゃないこんな怪我をさせて!」

「いや、まさか俺の蹴りで師匠がこんなになると思わなくて」

『お前は、セレスティアの……いや、本人か?』


 私を見て弱々しい声で竜王が問う。

 竜は人語を発声できないから念話の声が直接頭に響く。


 竜王は口から大量の血を流していた。外傷は見当たらないが、恐らく内部がぐちゃぐちゃになっている。


「本人かどうかはわたくしもわかりませんが、レティシア・セレスティアと申します。竜王様にお会いできて光栄ですわ」


 竜王の目がぎょろりと動いた。視線が私からレギアスに向かう。

 

『そうか、聖華か……どうりでいままでとは比べ物にならん……』


 セイカ? 何を言っているのだろう。

 いまはそんなこと考えてる場合じゃない。

 

「よろしければ、竜王様に聖印を贈りたいのですが」

『……意図は、なんだ?』

「わたくしの夫になる人のお師匠様が重症で苦しんでいるのです。治して差し上げたいだけですわ」

『そうか、お前がレギアスの……。では、頼む』


 竜王の前足の爪に触れ、聖印を刻む。

 艶のある黒に花の紋様が描かれ、眩い虹色を放つ。

 うん、綺麗に映えてる。自分の印を付けたみたいで気分がいい。


『これは……想像以上だな』

「聖印だけで治るには少し時間がかかるので、治癒術も使いますね」


 書き置きすら残さずに出てきたから長居はできない。

 本来は聖印の最大効力以上の治癒術などはない。でも結界術で余計な血を抜いたり、血管や神経を繋げば治癒時間の大幅な短縮ができる。

 祝福では助からない怪我や病気を治すために、クリスに相談しながら試行錯誤で身につけた技だった。


「終わりました」


 30分ほどかけただろうか。

 結界術を複数展開する精密作業に精神力が大幅に削られてしまった。

 聖印は直接触れることで桁違いの効力を発揮するから、竜王の爪を背にしてレギアスと座る。


「レティシア、大丈夫か?」

「少し疲れました。完全に治るにはまだ時間がかかります。しばらく待っていてください」

「もちろん。ありがとうレティシア。……師匠って、女神のこと、知ってたんだな」

「セレスティアは友だったからな。それは色々と知っているぞ」

「そうだったのか……」


 レギアスががっくりと項垂れた。


「レギアス様?」

「あ、いや。ドラゴンが神話なんて知るわけないと思ってて。意外だったから」

「レギアス様、失礼が過ぎると思います」


 竜王って、ソーマでは主神のはずなのに。教義はないからレスタの教えを採用しているとはいえ。

 親しすぎて認識がおかしくなっているのかしら。


 それから一時間ほど、竜王の傷が治るまで色々と話をした。レギアスと婚約したこと、両親が殺されたことも。

 竜王ならば、結界を消せる方法を知っているかもしれない。聞いてみたいけれど……

 

 出会ったばかりでこちらの弱味を見せるのは、さすがに脇が甘すぎるような気がする。

 ドラゴンって陰謀とは無縁な気がしてしまうけれど、竜王ともなればその叡智は計り知れない。

 

「レティシア、師匠の傷もだいたい治っただろ? 明日また来るから今日はもう帰って飯にしよ」


 悩んでいるあいだに時間が経っていたらしい。そろそろ帰らないと朝食に遅れてしまう。


「では竜王様、今日はありがとうございました。また明日お会いしましょう」

『こちらこそ礼を言うぞ。いつでも来るといい』


 竜王と別れると、レギアスとヴァルグに乗り帰途についた。

 シャリーアに乗るつもりだったのに。レギアスの動きが速すぎる。

 景色はすっかり明るい。さっきまでいた火山島がもう小さくなった。


「なあレティシア。明日だけじゃなくて、しばらく空き時間に師匠のとこに出かけたいんだけど、いいかな?」

「別に、いいですけれど」


 レギアスの欲求を竜王様が受け止めてくれるなら願ったり叶ったりだ。


「レギアス様って……もしかしてわたくし以外の女性とは、お付き合いしたことがないのですか?」


 レギアスはあからさまにムッとした。


「俺はレティシア以外の女は嫌いだ。指一本触れたいと思わない」

「じゃあ、私に出会う前は男性が良かったとか!」

「……おい。自分が女好きだからって俺を一緒にするな。俺は、好きなのは男でも女でもなく、レティシアだけだ」

「そ、そうなのですか……」


 なんだか照れくさくて、体が熱くなってきた。

 秋なのにレギアスが魔術で温めすぎるから……


「俺さ、姉貴が七人いるんだ」

「え?」

「姉ってやつは、弟を見るとおもちゃにして遊ぶんだよ。着せ替え人形にしたり。七人もいたら地獄なんだ。師匠と島で暮らしてからは滅多に会わなくなったけどさ」

「ふふふっ、わたくしはサラしかいないから、少し羨ましいです」

「レティシアには想像もつかないんだ。あいつらの横暴さなんて」


 そうか、お姉様のせいで女嫌いなんだ。

 着せ替えってどんな服を着せられたのだろう。白タイツとか? レギアスのお姉様に会えたら聞いてみよう。

 

「レギアス様は嫌われているから、侍女の話は信じないほうがいいですよ」

「え?」


 私ったら、どうして自分に都合の悪いことを教えているのだろう。


「……もしかして、十日ってのは、嘘なのか?」

「そうですね。倍に盛られていますね」

「そうか……良かった」


 祝福のおかげで五日もあることは稀だけれど、黙っておこう。


「レティシア、どうして教えてくれたの?」

「え? 少し……可哀想だったので」

「そうか」


 からかわれるかと思ったのに、レギアスはそれ以上何も言わなくて。

 いつものように私を抱きしめ、髪に顔を擦り寄せた。

 耳に当たるレギアスの肌と、お腹に回された手の感触が……どうしようドキドキする。


『オレの上でエロいことしようとするなー!』

「ヴァルグ? 念話もできるようになったの?」

「お前は黙って飛んでろ!」

『オレは相手にもされないのに、お前らの見せつけられる気持ちを考えろ!』


 なんだか泣き声だ。


「ヴァルグ、ごめんなさい」

「はっ、情けねぇ」


 それから皇宮に着くまでの数分間、レギアスに抱きしめられながら私の体は熱いままだった。

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