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女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


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見えない刃

「レギアス様。あの、ダメですよ?」


 朝、目覚めるなりレギアスに押し倒されている。


「レティシアは、俺を何だと思ってる?」

「何って……。愛しい、婚約者様です」


 あ、赤くなった。チョロい。


「俺は、18歳の健康な男だ」

「は、はあ」

「好きな女が自分の腕の中でずっといい匂いをさせて、柔らかくて……こんなの、頭がおかしくなるだろ」

「そ、そんなことを言われても、我慢してくださいとしか」


 猿でも悪魔でもなく人間ならできるはずだ。たぶん。


「レティシアは、俺のことが愛しいんだよな?」

「え? えーと」

「可哀想だろ、俺」

「今日は大事な賓客対応があるのです」

「俺の親父だろ? 少しくらい待たせても構わない」

「わたくしのお義父様になるのです。そんなわけには」


 レギアスから不穏なオーラが……

 もう、魔力を出されたら折れるしかないじゃない。


「えーとでは、少しだけ、少しだけなら許します」

「本当に?」


 レギアスは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに抱きしめてきた。

 この人は、しつこくさえしなければ可愛いし、私だって心地いいのに。


 レギアスが私の首元のリボンに手をかけた時、皇宮を囲む結界が消失した。


「――っ! な、何が……」

「入ってきた」


 レギアスが一転して警戒モードになっている。


「結界、破られたという感じではなく、消えました。どうして……」


 そんなこと、あり得ない。

 あり得るはずがないのに。

 混乱する私にガウンを着せると、レギアスは私の顔を両手で包んで瞳をじっと見つめた。


「レティシア。確かめに行くぞ」


 手のひらと視線の熱さに、混乱から引き戻された。


「侵入者は、聖苑、ですね」

「ああ。どうする? 近衛を引き連れて行くか?」

「いえ……侵入者はただ者ではありません。私たちだけのほうが」

「俺もそう思う」


 レギアスは最低限の身だしなみを整えながら言う。

 私に靴を履かせ、抱き上げてバルコニーに出た。

 ヴァルグとシャリーアは人の姿で険しい顔をしている。


「行くぞ」

 

 レギアスが空中に氷の足場を作り、一歩跳ぶだけで聖苑に到着した。

 ドラゴンたちも背中に羽根を生やして飛んできている。


 朝靄に朝日が揺蕩い、大神殿の影がかすむ聖苑。

 珍しく鳥たちが静かで、湿った草の香りが鼻をくすぐる。

 

 中央の石畳の上、白と金のマントを纏った男が佇んでいた。

 少し長めの輝くような金髪に宝石をたくさんあしらい、瞳の藍色は吸い込まれそうに深い。


 なぜだろう、胸がザワザワする。

 ぼんやりしていたら、本当に吸い込まれてしまいそう。

 思わずレギアスの服を握りしめた。

 私を横抱きにする腕の力も自然と強くなる。


「まさか、世界樹をこんな使い方で変質させるとはな」

「な、なぜ世界樹だと知っているの? あなたは、誰?」

「この世界樹は元々余のものだからだ」

「え?」

「余はアスタレイウス。そなたの(つがい)だ」


 アスタレイウス――帝国の、皇帝!

 頭が真っ白になった。両親の最期の情景が蘇る。

 レギアスの殺気に木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立っていく。


「レティシアの番は俺だ!」


 アスタレイウスはフッと余裕の笑みのようなものを漏らす。

 それにしても、番だなんて何のつもりなんだろう。

 図々しさもたいがいにしてほしい。


「勝手なことを言わないで」


 私もレギアスに負けじとアスタレイウスを睨みつける。

 身体は怒りに震え、叫び出したい気持ちをなんとかこらえた。


「わたくしの両親を手にかけておいて、よくもぬけぬけと出てこられたものね」

「レティシア。余はそなたの両親を殺したりなどしていない」


 淡々と語りながらも射抜くような眼差し。

 嘘か、誠なのか。


「あの影は余の使いだが、暗殺を知ってそなたを救出しようとしたのだ」

「そんな都合のいいことを言っても、騙されないわよ? さんざん嫌がらせをしておいて」


 そうだ、信じてはいけない。

 ソーマが怪しいとでも言う気かしら。


「レティシア、姿が見えない犯人なのだろう? そなたの身内なら簡単なことだ。そう思わないか」

「な……」

「その悪魔も怪しいが、それだと短絡が過ぎる。そなたの両親に恨みを持つもの、婚約で損をしたものがいるだろう」


 体温が一気に下がっていく。

 そんなこと、考えもしなかった。

 私の、身内……

 レギアスも息を呑む。

 

「結界って、姿を消せるのか?」

「高度に使いこなせる者ならば、簡単です」


 レギアスが出てこなければ、私は皇族の誰かと結婚することになったはず。

 婚約を決めたことを恨みに思って?

 まさか、そんなことが……


「レティシア、この国もその悪魔も危険だ。余の元へ来い」


 この男は、いったい何を言っているのか。

 私の国が、危険?

 ずっと守ってきた、この楽園が?

 世界が反転したかのような錯覚に、息が止まる。

 

「あ、あなたのことなんて信用できない! 今日初めて会ったような人」

「それは、そなたが覚えていないだけだ」


 アスタレイウスは悲しげに微笑んだ。

 いったい、なんだというの?

 小さいころにでも会ったのかしら……

 

「せめて、余の使いの腕を返してもらえまいか。あの者は醜く歪んでもう人前に出られぬ」

「そうね、あの者が刺客ではないと判明したら返して差し上げるわ。今日はお帰りになって」

「次は正式に葬儀に参列しに来る。それまでに考えておくといい。せいぜい捜査することだ」


 皇帝が大神殿の方へ歩いていくと、黒いローブの者が靄の中から現れた。術で空間を黒く歪め、二人とも消える。

 空間の歪みが不気味に残り、しばらくして靄に溶けていった。


「あいつが影の術師か。レティシアに片腕を切り落とされても術は問題なく使えるみたいだな」

「術式が刻まれていると報告があったから、弱ってはいるのかも。あの術師が結界を消したのかしら……確かめれば良かった」


 動揺して、聞くべきことを聞けていない。

 私の、結界を消せる者がいる。

 しかも、身内を疑わなければいけないなんて……

 敵が消えて、改めて恐怖が湧き上がってきた。体がカタカタと震える。


「レティシア、大丈夫か?」

「レギアス様、しばらくこのまま、こうしていてください」

「ああ」


 レギアスも容疑者のひとりだというのに。

 もう、誰ならば信用できるのか、分からない。

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