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女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


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白竜の啼く庭

 部屋に戻り侍女に紅茶をいれてもらったけれど落ち着かず、私はレギアスと聖苑に出ていた。


「いつもなら動物たちが寄ってくるのに」


 可愛らしい動物を撫でて癒されたかったのに、みな隠れてしまっている。どうしたのだろう。


「畏れてるんだ」

「え?」

「神気が怒りに満ちてる」

「もしかして、国民がみな私の怒りを感じ取っているとか、あるの? 悲しみとかも?」

「動物は勘が鋭いだけだ」


 国土を覆う神力が私の気分と連動はさすがにない、わよね? 本物の女神じゃあるまいし……


「そうだな、恐れ知らずのところへ行こう」


 そう言ってレギアスが空を見上げると、氷の板が空中に並び美しい曲線を描いていく。

 一番小さくて低い浮島まで、あっという間に階段ができあがった。


「素敵……」


 天に続く階段。本の中の世界みたい。

 すぐそばの最下段に足を乗せる。カチカチの氷は滑ることはなさそうだ。

 スカートをたくし上げて駆け上がった。

 振り向くとレギアスがゆっくり歩いているのに、なぜか私と同じ速さでついてくる。

 近衛たちも慌てて上ってくる。


 何段上ったろうか、息を切らせながら顔を上げる。

 氷の階段の先には、森の緑と湖面の碧が広がっていた。手前の草原には四阿がぽつんと立ち、そのそばに白と黒の巨大な影が並んでいる。

 

 あ、動いた。

 横たわっていた二頭のドラゴンが首をもたげ、こちらを見つめる。黒竜ヴァルグと、陽光を受けて輝く純白の竜だ。蛇のような頭部に鳥に似た翼。どこにも棘がなく、滑らかな輪郭をしている。


「綺麗……」

「シャリーアだ。レティシアに似合う、美しいやつを連れてきた」

「わたくしに? 乗れるのですか?」

「ああ。訓練が必要だが」


 浮島に足を踏み入れると、また自然に駆け出していた。近くで見ると鱗は陶磁器のようにつややかで、硬さを感じさせない。


「シャリーア、わたくしはレティシアよ。よろしくね」


 白竜は頬を擦り寄せてきた。すべすべとした感触が心地いい。


「人懐っこいのですね」

「いや、こいつは超絶プライド高くて苦労したんだが……」

「そうなのですか?」

「俺は嫌われたが、ドラゴンは強いものになびく。いまのレティシアの覇気が気に入ったんだろ」


 話している隙にドレスのリボンを咥えられ――気づけば背中に持ち上げられていた。


「きゃっ……わあ、見晴らしがいい! 背中までつるつるね……掴まるところがないわ」

「鞍を作らせよう」

「美しさを損なわないようなものを……あ、そうだわ」


 不可視の結界で鞍のように固定する。ぴたりと安定した。

「結界術、便利だな」

「ふふっ、いい感じです」


 音もなく翼が広がり、ふわりと空に浮かぶ。重力そのものを操っているらしく、羽ばたかずに静止している様子は不思議だった。


「おい、勝手に飛ぶなよ? いま遠乗りなんてしたら問題になる」

「大丈夫。浮島を回るだけですわ。見ての通り、身を守るのは得意なのです」

「ちょ、意思疎通できてないだろ!?」


 私の言葉を受けてか、シャリーアはさらに高度を上げる。

 慌ててレギアスがヴァルグで追いかけてきた。


「俺の連れてきた竜で何かあったら、俺の立場が危ういんだぞ!?」


 珍しく外聞を気にして焦っている。

 突然、シャリーアが鋭く身を反らせた。

 大気が震える。次の瞬間、シャリーアの口から透明な何かが放たれた。レギアスの前に展開された曲面のシールドを叩く。


「……波動? 音波かしら」


 波紋のように空間が歪んでいた。色んなブレスがあるものなのね。


「やってくれるじゃねえか。負けて連れてこられたのを忘れたか?」

「酷い……無理やりだったの? 嫌だったわよね。そうだ、聖印をあげるわ」


 私は首元に聖印を刻んだ。白い肌に七色の光が輝く。

 レイアに続いて二つ目だけれど、まだまだいけそう。女神の生まれ変わりといわれるだけのことはある。


「な、それは……」

「レギアス様には結婚式の時に差し上げますわ」

「そ、そうか……」


 そのとき、シャリーアが濁った金切り声を上げた。

 空気が震え、耳ではなく頭蓋の奥が共鳴する。ヴァルグが暴れ、レギアスが顔をしかめて耳を塞ぐ。やはり音波だ。精神を直接叩く攻撃?

 続けざまに翼の先端から三日月状のエネルギー刃がいくつも放たれる。レギアスは即座に多重シールドを展開。次々と防ぐが機動を奪われて防戦一方だ。


 刃の雨に紛れてシャリーアが突進する。閃く翼がシールドを切り裂き――レギアスはヴァルグを蹴って後方へ跳んだ。

 必死に目で追ったけれど、初めての急加速に耐えられるわけもなく。視界が――白く霞んでいく――


 ……気づけば、柔らかな背の上に横たわっていた。

 見上げると青空。周囲には草原と岩肌。どうやら二つ目の浮島に着いたらしい。

 起き上がるとシャリーアが首を後ろに伸ばして心配そうに見ている。

 ヴァルグもレギアスもこちらを見て無事な様子。


「レティシア、大丈夫か?」

「ええ、なんとか。情けないところをお見せしました」

「こいつ、雌なのに好戦的なんだ。……別の竜を探し直すか」

「とんでもない! わたくし、シャリーアでなきゃ嫌です。いまの戦い……とっても胸が高鳴りました」

「……そ、そうか」

「もう少し続いていたら、わたくしも結界で援護できたのに」


 私も一緒に戦いたかった。

 けれど……

 もう少し高度な結界を使っていたら、気を失って解除されていた。

 冒険は、やはり国主のすることではない。


「じゃあ、次はレティシアが俺と戦ってみるか?」

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