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女神皇主の受難〜十年探した初恋の王子に死ぬほど溺愛されています〜  作者: 如月ニヒト


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波乱の御前会議

 昼食のあとは宰相や各大臣との会議だ。

 自室のすぐ近くの、御前会議専用の小さめの会議室にレギアスと向かう。

 初めて入るそこは、焦げ茶の深い色合いの中に金と黒の装飾が施された重厚な佇まいだった。


 奥に進み大テーブルの上座に座る。レギアスには斜め隣の席が用意されていた。

 声をかけると跪いていた大臣たちが立ち上がり、それぞれの席につく。


 まずは捜査状況の報告を聞いたが、ほとんど進展はなかった。魔術師たちが影の魔術について必死に調べているけれど、資料も少ない特殊な体系の魔術とのことでなかなか難しいのだとか。


 帝国や帝国の息のかかった国にもかなりの数の間諜を忍ばせているものの、証拠になるような情報は何もつかめていないようだ。

 帝国ならバレたところで強引に黙らせる力はあるだろうに、慎重なことだ。

 それとも……帝国以外という可能性もあるのかしら?


 そしてさらに今後の予定などを話し合い、ある程度話がまとまると、皇主が知っておかなければいけない情報や手続きについて、各大臣から順番に案内があるとのことだった。


「待ってください」


 口を開いたのはレギアスの向かいに座るサラディールだった。

 ひとりっ子の私にとって兄同然の存在。聖印を刻んでくれた従兄だ。


「皇主の役割の引き継ぎにレギアス殿下も同席させるのですか?」

「それは……影魔術の使い手が暗躍しているかもしれない状況では離れるわけにはいかないわ。まだ正式に結婚したわけではないけれど、慣例では配偶者と共有してもいいはずよ」

「そうだね、でもレギアス殿下を信用してしまっていいのかな」

「なんだと?」


 レギアスが殺気立つ。


「一連の騒動……君が黒幕だったりしないよね?」


 黒幕? レギアスが?

 目の前が真っ暗になって、二人の声が遠くなる。


「は? どういうことだ??」

「レティが誘拐されそうになったのも両陛下が暗殺されたのも……君が唯一得をしているように思える」

「貴様っ!! 俺がレティシアの両親を殺して悲しませて平気な男だと、そう言いたいのか!?」


 レギアスの殺気が漏れていまにも爆発しそうだ。怯えて椅子からずり落ちそうになっている大臣もいる。

 だがそんなことはどうでもいい。

 私は……まんまと、敵の掌中に落ちたということ?

 昨夜の醜態を思い出し、怒りで全身の毛が逆立った。

 きっと私もレギアスに負けないくらい殺気を放っていることだろう。


「レティ、可能性の話だよ。落ち着いて。殿下のこともどうにかしてくれないか」

 

 ギリギリと歯噛みしていたレギアスが私とサラを見てきょとんとした。

 立場を忘れて喚き散らしたいところだけれど仕方がない。

 私は奪理結界をレギアスに発動した。この結界は力を奪う、存命の皇族では私だけが使える結界術。

 脱力してテーブルに崩れ落ちた情けない姿を見下ろした。どうやら目を見開く力は残っているらしい。愕然とした表情を見ると少し落ち着いた。

 このレギアスが、黒幕……?


「レギアス殿下は、わたくしの名前も知らなくて……嘘とは、思えない」

「レティ、悪魔のように演技の上手い人間もいるんだ」

「演技……。確かに、レギアス殿下の演技力は天才的よ。だからって……全てが演技なら、もっと上手く立ち回ると思うのだけど」


 全てが計算だった可能性なんて、有り得るのかしら。

 私を好きなのは、本当だと思うけれど……まさにそれが動機となると……

 

「レギアス殿下は何も知らなくて、マティアス殿下が糸を引いている。なんてこともあるかもしれないよ」

「マティアス殿下が?」


 レギアスが息を呑んだ。


「彼は策略家で有名だ。弟がレティと結婚すれば自分は王になれる上に、殿下をさりげなく誘導してアンサリムを乗っ取ろうと考えているかもしれない」

「そんなこと……策略家といったって、レギアスが私に一目惚れするなんてわからないでしょう?」

「そこはまあ、賭けのようなものだったのかもしれないね」


 兄弟だから異性の好みを知っているとか? ありえないことでは、ないのかしら。分からない。


「影の魔術師は、南東の島国の一族なのでしょう? ソーマとは真逆の位置関係じゃない。帝国がドラゴンを狙っているから、こちらの大陸は我が国くらいとしか交流がないのでは」

「ドラゴンは目立つから遠回りしたとしても可能性は低いだろうね。だが、暗殺者が影の魔術師とは限らない。殿下の母上は高名な魔術師らしいし、姿を隠せる魔術も扱えるかも」

「そんな……」

「……兄貴のことは、正直わからない。俺を派遣すると決めたのは兄貴の可能性はある……。それに、二番目の姉は母親の弟子で、隠蔽魔術を特技にしている」

「な……」

 

 静観していた大臣たちがざわめく。

 信用しきっていたソーマ王国に実行能力があることが証明されてしまった。

 マティアス殿下……穏やかな笑顔が頭に浮かぶ。あの方が、本当に?

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