表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/117

塩善という名の重み…

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

七月六日、午後十時過ぎ。


美琴たちは、カフェにある「おとぎ前線」の扉から「社通やしろとおし」を使い、一気に「奥の院のおくのいいんのさと」へと辿り着いた。郷の夜風が頬を撫でる中、神那かんなは腕の中の「編みぐるみ」を、壊れ物を扱うように大切に抱え直す。


「さあ、みんな。『奥のおくのいいん』の命婦大神みょうぶたいしん様の元へ……」

 美琴が先頭に立ち、一同を促した。


「じゃあ、みんなで行くわよ。まずは、この天・女・の・編・み・ぐ・る・み・をどうにかしないと……」

神那が強い口調で応じると、祈里いのりも不安げな声を漏らしながら後に続く。


「うん。分かってる。沙希さきちゃんも稲穂いなほちゃんも亜都あとちゃんも付いてきて……」

一行は静まり返った郷を歩み、奥の院の社へと到着した。そこには警護にあたっていた一人の眷属が立っていた。


「あれ、美琴様。今晩は奥の院の社へ何か御用でしたでしょうか?」

眷属の女性が不思議そうに問いかける。


「ご苦労様です」

美琴は少し困った声を出しながらも、真剣な眼差しで返した。


「今、命婦大神様は御社おやしろの方にいらっしゃいますか?」


「はい。いらっしゃいます。ご用向きは……何か……緊急なことでも?」


「はい。出来れば早急にお会いしたいと……。お伝えする内容はお会いしてからお伝えしたいと、お願いいただけないでしょうか」

美琴のただならぬ様子を察したのか、眷属の女性は深く頷いた。


「分かりました。すぐに命婦大神様へお伝えに向かいますので、しばらくお待ちください」

彼女が社の中へと消えていくのを待つ間、祈里が神那の腕の中に視線を落とす。


「いまのところ、その編・み・ぐ・る・み・は大丈夫?」


「とりあえず、今のところは普・通・の・編・み・ぐ・る・み・のままね。何か変化が起こりそうな気配もないわ」

神那が答えた直後、眷属の女性が再び姿を現した。


「お待たせしました。命婦大神様がお待ちです。美琴様と皆・様・、どうぞこちらへ」

案内されるままに、六人は社の奥へと足を踏み入れた。


「命婦大神様、美琴様たちをお連れしました」


「ご苦労。そなたは下がってよいぞ」

命婦大神の厳かな声が響く。眷属が辞したあと、大神は六人を自らの前に呼び寄せた。


「さあ、美琴も皆も私の前に……」

並び立つ彼女たちの様子を見て、命婦大神は眉をひそめた。


「ど、どうした美琴……。そして、祈里も神那も、皆の様子がおかしいのだが……どうしたのだ」

その問いに、美琴は深々と頭を下げた。


「み、命婦大神様……。神那さん、編・み・ぐ・る・み・を!」


「分かりました……」

神那が差し出したのは、赤・ち・ゃ・ん・の・姿・をした編みぐるみだった。


命婦大神はそれを見た瞬間、困惑の声を漏らした。

「こ、これはなんじゃ?」

だが、じっとそれを見つめるうちに、大神の瞳に驚愕の色が走る。


「い、いや……これは……天・女・か?」


「はい。風の御女神様の使者なる者が前線カフェの方に現れて、これを私たちにと……」

美琴の説明に、大神はさらに混乱を深める。


「それはどういうことじゃ。わらわはウカノミタマ様より何も聞いておらんぞ」

美琴は畏まりながら、事の経緯を語り始めた。


「はい。風の御女神様の使者なる者の話では、この天・女・の・編・み・ぐ・る・み・は・有・明・海・の・天・女・とのことで……。こちらにあります『おとぎ前線』が、一・番・近・く・て・一・番・安・全・な場所だからと……それだけ述べて、あとは特に……」


「その話……おかしくはないか。有・明・海・の・天・女・であれば一・番・近・い・のは、大魚神社おおうおじんじゃ海中鳥居かいちゅうとりいでないか! そ・れ・に・安・全・と・い・う・な・ら・、他・の・天・女・達・も・い・る・は・ず・……」

大神の指摘はもっともだったが、美琴には答えようがなかった。


「はい。使者にもそのお話をいたしましたが、風の御女神様の御意向ごいこうであるとしか……」


「わ、分からぬ……。ウカノミタマ様ならご存じかもしれまいが」

困惑する一同の中で、神那が恐れながら口を開いた。


「恐れながら命婦大神様、その使者は、これは雑・誌・の・懸・賞・だとも申しておりました」


「そうです!」

祈里も熱を込めて続く。「この天・女・の・編・み・ぐ・る・み・は人間たちが読む『月・刊・編・み・ぐ・る・み・マ・ガ・ジ・ン・』という本の特賞だとも言ってました。最・初・は・嘘・だ・と・思・っ・て・いましたが、本当にそのような本があり、風の御女神様の作品であるとも……」


「雑・誌・と・は・人・間・達・が・読・ん・で・い・る・本・の・事・じゃな。そして、これが懸・賞・の・商・品・だと……?」

命婦大神の戸惑いに、美琴が重ねる。


「使者が嘘をついている様子はございませんでした」


「では、その使者とやらは一体何者じゃ」


「人形司の『三十三代目塩善』と申しておりました。唐津の方からやってきたと……」


「……塩善」

その名を聞いた瞬間、命婦大神の声が微かに震えた。


「久・し・く・そ・の・名・は・聞・い・て・お・ら・な・か・っ・た・が……。そうか、その者は三十三代目か……。人間の命とは何と儚いものよ」


「命婦大神様は、そ・の・方・をご存じで……」

問いかける美琴に、大神は遠い過去に思いを馳せるような目を向けた。


「わらわが会ったことがあるのは二十八代目になるかの……。ただ、その話は確・か・に・間・違・い・な・さ・そ・う・じ・ゃ。……そうか、分かったぞ。美琴よ」


「はっ!」

大神は表情を和らげ、力強く宣言した。


「心配するでない。塩善とは千年以上も昔より、古の御神様たちの御使いとなっている人間の一族……。その三十三代目が言う通りにするがよい。ウカノミタマ様へはわ・ら・わ・が・お・伝・え・し・よ・う。よいか!」

安堵の空気が流れる中、祈里が恐る恐る尋ねた。


「恐れながら命婦大神様、この天・女・の・編・み・ぐ・る・み・は……これからどうしたら……」


「い、祈里……」

神那が嗜めようとするが、命婦大神は豪快に笑ってみせた。


「言うた通りじゃ。その三十三代目の申す通り、お前たちに託したのであろう。それなら、お前たちに任せる。ウカノミタマ様もわらわと同・じ・こ・と・を・お・っ・しゃ・る・であろう。良・き・に・計・ら・え!」

人知を超えた縁に導かれた小さな命を、美琴たちは自分たちの手で守り抜く決意を新たにするのだった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ★★★ブクマ・ポイント評価お願い致します!★★★


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ