嘘?本当?
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月六日、午後十二時二十分頃。佐賀県鹿島市の「前線カフェ」店内の奥座敷。美琴に案内された塩善は、慣れた手つきで座布団に腰を下ろした。
美琴は依然として拭いきれない困惑を抱えたまま、手元のメニュー表を差し出した。
「お客様、こちらが当店のメニューになります。軽食とドリンク、甘味もこちらに……」
塩善はメニューを眺めながら、悪戯っぽく微笑んだ。
「お昼時だもんね……。でも、その前にお姉さん。な・に・か・僕・に・聞・き・た・い・っ・て・顔・をしてますけど……」
「そ、それは……」
言葉に詰まる美琴に、塩善は屈託なく続ける。
「別に大丈夫ですよ。聞・き・た・い・こ・と・に・は・答・え・ま・す・。あ・の・向・こ・う・に・い・る・怖・い・お・姉・さ・ん・とは違いますから……」
塩善は、店内の入口近くでこちらを鋭く見つめている神那を一瞥し、すぐに視線を戻した。そこへ、厨房から様子を伺っていた祈里と沙希が、意を決したように奥座敷へとやってくる。
「あっ、祈里さん、沙希さん」
美琴が振り返ると、祈里はどこか強気な態度で一歩前に出た。
「美琴さん、ここは私に任せて。……ええっと、まず、あなたは一体何者なの?」
「何度も説明しましたよ。僕の名前は塩善。三十三代目の塩善で、『人形司』であり、編・み・ぐ・る・み・師・でもあります」
少年の迷いのない回答に、沙希がオドオドしながら祈里の袖を引いた。
「い、祈里ちゃん……。も、もうちょっと何か、その……核心を突いたところを……」
「分かってるわ。沙希ちゃん、今・日・の・私・は・一・味・も・二・味・も・違・う・ん・だ・か・ら・ね!」
祈里は一つ頷くと、再び塩善を問い詰めた。「ここに来た本当の理由は何?」
「だから、お・届・け・物・を・配・達・に。今は、ここでランチを注文しようとしているただのお客さんですね」
「来店された時からの話、どこからどこまでが本当で、どこまでが嘘なんですか?」
美琴が切実に問いかけると、塩善は心外だと言わんばかりに肩をすくめた。
「お姉さん、僕は入店してから、嘘・な・ん・て・一・度・も・話・し・て・い・な・い・けど……」
「ですが、風の御神様からのお届け物だと言ったり……。店長には『月刊編みぐるみマガジン』の懸・賞・品・だとも言っていましたよね」
「そうよ! 美琴さんの言う通りだわ。沙希ちゃんもそう思うでしょ?」
祈里に促され、沙希も震える声で同意した。
「う、嘘・で・は・な・い・と言われていましたが、お話しされてることが……何かおかしくないですか……?」
「うーん……」と少し考え込んだ後、塩善は何かを思い出したようにポンと手を打った。
「ちょっと待ってください。ええっと……」
塩善は再び、自分の袖の袂をごそごそと探り始めた。そこから取り出されたのは、一冊の分厚い雑誌だった。
「あ、あの袖……入っていた物の量と大きさが全然合ってないんだけど。さっき編・み・ぐ・る・み・も入っていたわよね?」
祈里の驚愕の声を余所に、沙希も真っ青になる。
「は、はい。やっぱり絶対におかしいです……」
「はい、これ。先月号の『月刊編みぐるみマガジン』」
差し出された雑誌を受け取り、美琴が内容を確認する。
「確かに……間違いなく先月号の七月号ですね」
「ええっと、ここのページですね……」
塩善がページをペラペラとめくり、ある一点を指し示した。
「ほら、見てください。ここの懸・賞・ペ・ー・ジ・の・部・分・、書いてあるでしょう?」
祈里がその誌面を覗き込み、内容を読み上げる。
「なになに……今月の豪・華・特・賞・は、あの『幻』の編みぐるみ作家『しなとべのみこと』先生の最新作、『天女シュカの編みぐるみ(本・人・の・直・筆・証・明・書・付・き・)』を一名様に……」
「で、見事に今回、特賞に当選されたんですよ。こちらの、一・応・、『社・長・』と・呼・ば・れ・て・い・る・方・が……」
美琴は困惑を深めながらも、核心に触れる質問を投げた。
「でも、あなたは私たちが人間ではないことを知っていましたよね。それに、その……」
「編みぐるみ作家の『しなとべのみこと』先生のことですか?」
「神様とお話しできるとも……それに『風神様』と呼ばれる二・柱・の・お・姉・様・の・方・だともおっしゃいましたよね」
「だから、そ・れ・も・本・当・の・話・で・す・。僕は……というか、この『塩善』という名前は、千年以上前より神様への依り代を作らせていただいている者に与えられる、由・緒・あ・る・名・前・なんです。で、僕は初代から数えて三十三代目。僕のお祖母ちゃんが三十二代目になります。幻の作家『しなとべのみこと』先生も、正真正銘、風神様と呼ばれる二柱のお姉様の『級長戸辺命』様で、この特賞の最新作も、本・物・の・天・女・の・編・み・ぐ・る・み・なんです」
「本・当・に・嘘・を・つ・い・て・な・い・ってこと……?」
祈里が呆然と呟き、沙希も「絶対におかしい話だけど、本・当・の・話・だったの~」と目を白黒させた。
当の塩善は、呆れたようにため息をついた。
「だから、何度も言ってるじゃないですか。……あーもう、お・腹・が・空・い・た・の・で・、注・文・か・ら・先・に・い・い・で・す・か・?」
店主である碧海が厨房からその様子を不安げに見守る中、カフェにはさらに奇妙な空気が漂い始めていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




