表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】真説・おとぎ前線 【壱】〜祐徳門前商店街編〜【小説版】  作者: 久遠 魂録


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/117

天女シュカの編みぐるみ…。

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

七月六日、正午を十分ほど過ぎた頃。佐賀県鹿島市の「前線ぜんせんカフェ」の店内は、届けられた『物』を巡る奇妙な緊張感に包まれていた。おとぎ前線のメンバーと、テーブル席の亜都あと稲穂いなほの視線が一点に集まる。


 その中心に立つ少年、塩善しおぜんは、いたずらっぽく声を張り上げた。


「じゃじゃ~~~ん! 『月刊編みぐるみマガジン』内で、今月の懸賞の特・賞・商・品・になる『天女シュカ』ちゃんの編みぐるみです! しかも、それはそれは高名な編みぐるみ作家、し・な・と・べ・先生の一・点・も・の・。大・変・貴・重・な・物・ですので、大・事・に・育・て・て・あげてくださいね!」

 塩善は再び着物のたもとに手を差し入れると、お雛巻きにされた赤ちゃんの編みぐるみをうやうやしく取り出した。そして、それを店主の碧海あおみへと差し出す。


「では、どうぞ!」


「あっ、はあ……」

 碧海は困惑の色を隠せないまま、吸い寄せられるようにその編みぐるみを受け取った。その重みは、単なる綿の塊とは思えない不思議な実在感を伴っている。


「僕・の・配・達・屋・さ・ん・の・仕・事・は・こ・れ・に・て・終・了・。これで美味しい甘いものが食べれるぞ~♪」

 使命を果たしたと言わんばかりに上機嫌な塩善の姿に、稲穂が呆れた声を漏らす。


「あれだけ大騒ぎしてたのに、意外とすんなり終わってない? 亜都ちゃん、どう思う?」


「あの塩善さんという方……確かに人間ではあるみたいですが、どこまでが本当の話で、どこまでが嘘か分かりませんわ」

 亜都もまた、困惑した表情で少年の背中を見つめていた。


当の塩善は、そんな視線などどこ吹く風で、碧海に問いかける。

「席はどこでも良いんですか?」


「み、美琴みことさん。まずは塩善さん……お・客・様・を案内してもらえませんか?」

 碧海が申し訳なさそうに促すと、美琴は一歩前に出た。


「申し訳ございません。当店は今、テ・ー・ブ・ル・とお座敷のどちらも空いておりますので、ご自由な方をお選びください」


「それじゃあ、皆さん、僕に何か聞きたそうなので奥のお座敷に行きます」

 塩善は迷うことなく奥を指差した。


美琴が「お座敷ですね。では、こちらから……」と先導し、一行は店の奥へと移動していく。


残された碧海は、腕の中の編みぐるみを見つめ、神那かんなに小声で尋ねた。

「神那ちゃん。これって、普・通・の・編・み・ぐ・る・み・じゃなくて、い・つ・も・の・編・み・ぐ・る・み・……なんだよね?」


「そう。あの塩善っていう子の話が本・当・だったら、ね……」

神那の言葉に、祈里いのりも不安げに口を挟む。


「でもさあ、これって本当にい・つ・も・の・方・の・編みぐるみかな? 沙希さきちゃんはどう思う?」


「店長さんが抱えてると、本・当・の・赤・ち・ゃ・ん・に・見・え・て・可・愛・い・です♪」

 沙希が頬を緩めて答えると、神那がぴしゃりと叱りつけた。


「沙希! 祈里はそんなことを聞いたわけじゃなくて、これがい・つ・も・の・方・の・編・み・ぐ・る・み・かって聞いてるの!」


「と、とりあえず社・長・命・令・だから、お店に飾るけれど……。さて、どこに飾ろうかな……」

碧海が悩ましげに店内を見渡すと、祈里が懸念を口にする。


「あ~あ。社長さんの趣味で、このお店には普・通・の・編・み・ぐ・る・み・の販売コーナーもあるから、置く場所次第では売り物と間違えられるかもしれないよねえ」


「大・変・貴・重・な・物・らしいからね。しかも電話での社・長・の・声・は・、と・て・も・ウ・キ・ウ・キ・だったの。『特賞よ!』『一点ものよ!』って、何も知らない素振りではあったけれど……。神那ちゃん、やっぱり普通の編みぐるみなんじゃないの?」

 碧海の微かな期待を、神那の断定的な口調が打ち消した。


「いや、絶対に普通の編みぐるみじゃない。あの塩善って子が、私・た・ち・に・公・然・で・堂・々・と・言・っ・て・た・から」


「確かに……。最初は捉えがたい言い方をしていたわね。『今は』とか……。でも社長の電話から突然、態度が変わったわ。あの塩善さんというお客様から話を聞くしかないのかしら」


「それは大丈夫よ。わざわざ座る場所を座敷の奥って指定してきたんだから。美琴さんが今、何かを聞き出しているはずだわ」

神那の言葉に、碧海はようやく少しだけ安堵の息を吐いた。


「そ、それならいいんだけど……」


「店長、私も沙希ちゃんも、美琴さんのいる座敷の方へ行ってくるよ!」


「は、はい。何か分かるかもしれません……」

 祈里と沙希が駆け出そうとするのを、碧海が呼び止める。


「分かったわ。神那ちゃん、稲穂ちゃん、亜都ちゃんは……。

うーん、相変わらずお店にお客様は来ないし暇ではあるけれど、一応今は土曜日の書き入れ時だから。万が一のことを考えて、接・客・対・応・の・準・備・をお願い!」


「了・解・!」

 神那が威勢よく応じる。


「あの塩善さんのことは、美琴さん、祈里ちゃん、沙希ちゃんに任せた。私は、とりあえずこの編みぐるみを持って厨房の方でスタンバっておくから。あのお客様がいる間は、何事も起きないことを祈っておくわね」

 碧海は腕の中の『天女シュカ』を落とさないよう抱き直し、何かが始まる予感に胸を騒がせながら、厨房へと足を進めた。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ★★★ブクマ・ポイント評価お願い致します!★★★


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ