雑誌の当選賞品?
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月六日、正午。佐賀県鹿島市の「前線カフェ」店内では、お届け物を巡る奇妙な問答が続いていた。おとぎ前線の四名と、テーブル席の亜都、稲穂が見守る中、厨房から現れた店主の碧海雫は、あまりの事態に頭を抱えていた。
「て、店長……」
祈里が心配そうに声をかけるが、神那は苛立ちを隠さず碧海に詰め寄った。
「店長! しかもこの『編みぐるみ』、狐でも狸でもないらしいわよ」
「編みぐるみ……編みぐるみ……。狐でも、狸でもない……」
碧海は茫然自失とした様子で、力なくその言葉を繰り返した。その様子を面白がるように、少年――塩善が悪戯っぽく微笑む。
「そんな! 店長さんは編みぐるみがお嫌いですか? 僕自身、人形司ではありますが、本・業・の・方・は・『編みぐるみ作家』ですから……。そんなに嫌がられるとショックだなぁ」
テーブルに座っていた稲穂と亜都が、驚いたように塩善に顔を向けた。
「編みぐるみ作家? 編みぐるみを作る人のこと?」
稲穂が聞き返すと、亜都も困惑を滲ませながら問いかける。
「でも、今日のお届け物は、塩善さんが作られたものではないのですよね?」
「そうなんです。今日は僕が作った作品ではないんですよねぇ。だから、ずっと言っているじゃないですか。『天・女・の・赤・ち・ゃ・ん・』の編みぐるみをお届けに来たんです」
「天女の赤ちゃん?」
ようやく正気を取り戻した碧海が、確認するように塩善に向き直った。
「それは、もちろん『編みぐるみ』の赤ちゃんなのよね?」
「はい。今・は・、ですけどね♪」
子供らしく、はははと屈託なく笑う塩善。その含みのある言い方に、碧海はさらに困惑を深めた。
「『今は』ということは……そこにいる神那ちゃんの言う通りの方の編みぐるみ、なのね?」
碧海はまくしたてるように早口で続けた。
「当店ではもう十分に、そ・の・お・方・面の・編みぐるみは持ち合わせておりますので、結・構・ですわ。どうぞ、送り主の方へご返品ください」
「申し訳ございません。このお届け物は返・品・不・可・なんですよ。あと、送り主の方からは、どうしても間違いなく届けてほしいとお願いされていますので……」
「返・品・不・可・? 一体その送り主の方はどなたです? そんな強引なこと、余・程・の・事・ですよね?」
その時、碧海の持つスマートフォンが突如として着信音を響かせた。彼女は一度、画面で発信者を確認する。
「塩善さん、少々失礼いたしますわね。電話を取ってもよろしいかしら?」
「いいですよ」
少年の許可を得て、碧海は「もしもし……」と通話に応じながら、足早に店内の奥、厨房へと姿を消した。
残された店内では、神那が憤り混じりの声を上げた。
「返品不可ってどういうことよ!」
「か、神那ちゃん……。美琴さん、どうしましょう。沙希ちゃんも、もう泣きそうになってるわ……」
祈里が心配そうに視線を向けると、沙希は泣くのを堪えるように「ううう……」と肩を震わせていた。
「正直、このお届け物は私たちの判断だけでお受けするのは難しくございますので……」
美琴は困惑しつつも、塩善に提案した。
「後日に一度確認してから再配達、というわけにはいかないかしら?」
「心配には及びませんよ。ちゃ〜んと話は通っていますから。それに……」
塩善はフフフと意味深に笑った。
「店長さんも『大丈夫』と言われるはずです」
そこへ、厨房から碧海が駆け足で戻ってきた。その表情は先ほどまでとは違い、困惑と驚きが混じり合った複雑なものだった。
「し、塩善さん……。もしかしてそれって、『雑・誌・の・懸・賞・商・品・』ですか? 月刊編みぐるみマガジンの……」
「あ〜〜〜っ、そうですそうです、懸賞商品ですよ! 忘れていました。僕ってなんておっちょこちょいなんだ。すみませ〜ん、ご当選おめでとうございま〜す♪」
わざとらしく声を上げる塩善に、神那が鋭く突っ込む。
「ちょっと! あなた、最初そんなこと言ってなかったじゃない! それこそ、しなとべ……」
「神那さん、そのお名前は……!」
美琴が慌てて制止すると、神那は「くううう……」と悔しげに言葉を飲み込んだ。
美琴は碧海に問いかけた。
「店長、先ほどの電話はどちらから?」
「うちの社・長・からよ……」
碧海は力なく答えた。
「先月号の月刊編みぐるみマガジンの懸賞で『天女の赤ちゃんの編みぐるみ』に当選したから、そろそろ届いていないかって。可愛いからお店に飾っておいて、って言われたわ」
碧海は「トホホ……」と困り果てた声を漏らし、それから皆にしか聞こえないような囁き声で付け加えた。
「何か怪しいんですよ……。電話をかけてくるタイミングも……」
碧海は一瞬だけ、テーブル席に座る亜都の姿に視線を走らせた。
「えっ、亜都ちゃん……?」
稲穂が不思議そうに呟く中、塩善は明るい声を響かせた。
「とりあえず、当・選・商・品・をお渡ししますね♪」
少年の手元にある、古風な包みが今、ゆっくりと解かれようとしていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




