店内BGMの隠された秘密
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月三日、十六時。佐賀県鹿島市の「前線カフェ」の座敷では、デビュー曲という高い壁を前に、理名が不敵な笑みを浮かべていた。
「今、このお店で流れているBGMの曲は、勿論、知ってるわよね?」
理名の唐突な問いに、美琴が首を傾げた。
「BGMって……、この店内で流れている和・楽・器・で始まる曲ですか?」
「そう。あのBGM……全部を良く耳を澄まして聞いたことがある?」
祈里は天井のスピーカーを見上げ、「あんまり意識したことないね……沙希ちゃんは?」と隣を突っついた。
「わたしもありません。普・通・の・曲・に聞こえます」
沙希が消え入りそうな声で答えると、神那がいら立ちを隠さずに声を張り上げた。
「あーもう、結局、コ・ー・チ・は何が言いたいの?」
「みんな静かに……。いまちょうど最初から始まるから良く聞いてみて……」
理名に促され、四人は静かに店内の音に意識を集中させた。流れてきたのは、いつもの和楽器の調べ。しかし、理名の真剣な眼差しにつられ、一同は息を呑んで聞き入った。
数分後、曲が一区切りついたところで理名が問いかけた。
「みんな、分かった?」
「ま~~ったく分かんない」祈里が真っ先にさじを投げる。
「いつもお店の曲としか……」
沙希もオドオドと視線を泳がせた。
理名は神那に視線を向けた。
「神那ちゃんは分かった?」
「コーチ、私への挑戦状ね……受けて立つわ……」神那は腕を組み、眉間に皺を寄せて唸った。
「う~~~~ん。悔し~い! 私も全然分からないわよ」
最後に振られた美琴は、確信を持てない様子で口を開いた。
「……これは、歌・の・メ・ロ・デ・ィ・ですか? 普通のBGMではないですよね?」
「凄~い! 大正解! 流石、美琴さん!」
理名は手を叩いて喜んだ。
「私もこのデ・ビ・ュ・ー・曲・の・話・が・出・た・時・になって思い出したんだ。志織お姉ちゃんが以前、このお店をオープンする前に、『社長がコスプレさせた店員さんに歌ってもらうわよ!』って言いながら、プロの作曲家さんに楽曲を依頼したって」
一同が驚きに目を見開く中、理名の解説は続く。
「最初は嘘かとも思ってたんだけど……。このお店の調理バイトに入るようになってから、流れてくるこの曲を聞いてたら、もしかして……と思って。一度じっくり聞いてみたら、やっぱりそうだったのよ!」
「う~~ん、じれったい! コーチ何よ! 早く言いなさいよ!」
神那の催促に、理名は楽しげに指を振った。
「とにかく、聞いたら分かるよ。じゃあ、また最初から流れるそうだから、みんな注意して聞いてみてね」
再び流れ出したBGMに合わせ、理名は鼻歌でリズムを取り始めた。
「ここがAメロ……、ここからがBメロ、ここはサビ、そして、ここは間奏。再びAメロ、ここからがBメロ、この部分はサビ……、最後はアウトロ…」
理名はプププと笑いながら確信を込めて告げた。
「完全な一曲として出来上がってるわね。社・長・が・作・曲・家・に・お・願・い・し・た・曲・って、間違いなくこ・の・B・G・M・よ!」
「い、いや……。このBGMの曲を私達が歌うんですか?」
美琴が困惑したように言葉を紡ぐ。
「確かに言われる通り一曲に聞こえますけど……歌をうたうにしても、歌・詞・とかは……」
「おーい! 歌・詞・は・あ・る・よー!」
その時、座敷の外から大きな声が響いた。
店長の碧海が、稲穂と亜都を連れ、コーヒーの乗ったお盆を抱えて戻ってきたのだ。
「雫店長! その話、マジですか?」
理名の食いつきに、碧海は落ち着いた様子で飲み物を配り始めた。
「とりあえず、はいコーヒー。あと、祈里ちゃんはコーラね。沙希ちゃんはオレンジジュース、そして美琴さんは抹茶。いつものヤツで良いい?」
その甲斐甲斐しい姿に、神那が感心したような声を出す。
「店長、察してるわね……。」
碧海はピクリと肩を揺らした。
「で、店長、その歌・詞・は?」
祈里の急かす声に、碧海は力強く頷いた。
「ちょっと待ってね……。お店のパソコン内にデータがあるから印刷してくるね」
店内に流れるメロディに、言葉が乗る。少女たちのデビューが、急速に現実味を帯び始めていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




