初ミーティング!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
七月三日の昼下がり。佐賀県鹿島市にある「前線カフェ」の店内には、外の暑さを忘れさせるような独特の緊張感と熱気が漂っていた。
お座敷には、理名の前に祈里、神那、沙希、美琴の四人が並び立ち、その後ろには稲穂と亜都が控えている。
「お客さん……ほ、本当に来そうではないけど、立ち話じゃ長くなりそうだし、とりあえず座りますか?」
理名は店内の静けさを確認するように一度間を置き、背後の二人に視線を向けた。
「稲穂ちゃんと亜都ちゃんも話を聞く?」
「私は興味あるから勿論聞くよ。お姉さま方の今後が気になるところだもの」
稲穂が即座に頷くと、亜都も真剣な面持ちで続いた。
「沙希様にも関係することですので、私もお聞きします」
理名は座敷部屋をぐるりと見回し、一人の女性に声をかけた。
「美琴さん?」
「はい。何でしょう?」
「座敷にあるテーブルを繋げて、みんなで話すっていうのはどうですか?」
理名の提案に美琴が承諾しようとした瞬間、言葉を待たずして祈里と沙希が動き出した。二人は手際よく別のテーブルを持ち上げると、既存のテーブルへとぴったり繋ぎ合わせた。
「よいしょっと。はい! これでOK!」
祈里が満足げに声を上げれば、沙希も「これでみんなでお話ができますね」と控えめに微笑む。
その様子に理名は「ハハハ……」と苦笑いを漏らしながらも、居住まいを正して宣告した。
「じゃあ、一応、今から私はあなたたちのア・イ・ド・ル・育・成・の・指・導・者・になります。今後『りなっちぃ』と呼ぶのはダ・メ。うーん……理名さんか、コ・ー・チ・あたりで呼んでもらえたら良いです」
理名は繋げたテーブルの真ん中付近に陣取ると、どっかと腰を下ろした。
「じゃあ、みんなそれぞれ好きなところに座って。でも、一応この『前線カフェ』はオープン中だから。店長一人で対応できないくらい……ま、まあ、お客さんが来たら、そちらを優先すること!」
「それは勿論、大丈夫です」
美琴が凛とした声で答えるが、神那はどこか冷ややかな視線を仲間に向けた。
「美琴さん……多分、理名さん……いや、次からはコ・ー・チでいいや。コーチが気にしてるのは、祈里と沙希だと思う」
その言葉に、祈里がムッとした表情で食ってかかる。
「な、なんて失礼な……神那ちゃん。これでも、前線カフェの『人気店員』と呼ばれてるんだよ!」
「で、誰・から?」
神那の温度の低い問いかけに、祈里は一瞬言葉に詰まった。
「さ、さ、沙希ちゃんと……。それに『亀さん』も!」
「それって完・全・に・身・内・と・身・内・系・の・人・じゃない」神那は呆れたように溜息をついた。
「残念だけど真実を話すわね。私も悔しいけど……このお店で人気があるのは、美琴さんと沙希よ」
「あわわわわわ……私は……そんな人・気・店・員・じゃありません……」
沙希がオドオドしながら焦り声を上げると、神那の追及はさらに鋭くなった。
「沙希のそのオドオド感が、お客さんたちに言わせれば庇護欲をそそられるらしいわよ。それに『前・線・カ・レ・ー』の宣伝用に撮ったPOPも人気があるし……」
神那は一度言葉を切ると、射抜くような視線を沙希に固定した。
「いつも思うけど、そのオ・ド・オ・ド・し・た・態・度・が・演・技・な・ら・私・、・許・さ・な・い・か・ら・ね!」
「まあまあ、神那さん。沙希さんが演技なら、それはそれで本当に凄いですよ」
美琴が穏やかになだめるが、今度は亜都が声を荒らげた。
「何を言われるんですか神那さんは……! 沙希様に負けてると思ってるから、そういう発言をされるんですか!」
「ちょっと、子・供・の癖に……そのおませな言い回しは何よ! 私が沙希に負けてると思ってる訳なんてないわよ! これだけは、ちゃんと先・輩・と・し・て・聞・い・て・お・き・な・さ・い!」
一触即発の空気が流れた瞬間、理名が身を乗り出し、神那と亜都の目の前に力強く掌を置いた。
「喧・嘩・は・ダ・メ!」
理名の鋭い声が場を制する。
「前にも言ったけど、最初はこういう些細なことからアイドルは内・部・崩・壊・していくのよ。喧嘩はしない。みんな仲良く……。沙希ちゃんは演技じゃないと私は思うわ。それと亜都ちゃんも、沙希ちゃんのことになると我・を・忘・れ・る・から、これからは注意してね?」
「は、はい……分かりました」
亜都はすっかり恐縮し、反省の声を絞り出した。
「コーチ、私が悪かったと思う」
神那は素直に認め、仲間たちに向き直った。
「とにかく、沙希も亜都ちゃんも、ついでに祈里にも謝っておくわ!」
「か、神那ちゃん……私は……つ・い・で・なの?」
ショックを受ける祈里の姿を見て、神那はバツが悪そうに視線を逸らした。
「祈里、悪かったわね。ついでじゃない……ご、ゴメン……」
不器用な謝罪と共に、前線カフェの座敷には少しずつ、しかし確実に「チーム」としての絆が芽生え始めていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




